2025年に施行されたAI推進法は、自社に何か対応が必要なのか、罰則はあるのかが、報道だけでは判断しにくい法律です。法律の条文と内閣府の指針、2026年7月に閣議決定された第Ⅱ期の人工知能基本計画をもとに、法律の概要と企業の責務、罰則の有無、EUのAI法との違い、中小企業が今のうちに決めておくことを順に整理します。
結論:AI推進法は、企業に罰則を科す法律ではなく、国の施策への協力を求める法律です
AI推進法の正式名称は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」で、令和7年法律第53号として2025年6月4日に公布されました※1。内閣府は略称を「AI法」としています。法律の中心は、国がAIの研究開発と活用をどう進めるかという方針と体制で、企業の禁止行為や届出の義務は定めていません。
| 問い | 答え |
|---|---|
| AI推進法とは | AIの研究開発と活用を国として進めるための基本法で、基本理念・責務・基本的施策・基本計画・戦略本部を定める |
| 施行 | 2025年6月4日に一部施行、9月1日に全面施行 |
| 罰則 | 条文に罰則の規定はない |
| 企業に求められること | AIの活用に努め、国と地方公共団体の施策に協力する責務(第7条) |
| 実務で読むもの | 法律に基づく指針(2025年12月)と人工知能基本計画(2026年7月の第Ⅱ期) |
罰則がないからといって、何もしなくてよいわけではありません。法律は、国がAIの悪用や権利侵害の事案を調べ、事業者に指導・助言・情報提供を行うことを定めています※1。さらに、法律に基づいて決められた指針が、AIを扱う事業者に取り組んでほしい事項を具体的に挙げています※4。中小企業が最初にすることは、社内で使っているAIの一覧を作り、使い方を決める責任者を置くことです。
AI推進法とは — 正式名称と成立・施行の経緯
内閣府の説明によれば、この法律はAIのイノベーションを促しながらリスクにも対応するために作られました※2。内閣府の概要資料は、法律が必要とされた背景として、日本のAI開発と活用が遅れていることと、多くの国民がAIに不安を抱えていることの2点を挙げています※3。そのうえで、既存の刑法や個別の業法に加えて新しい法律が必要だと説明しています。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2025年5月28日 | 国会で成立※3 |
| 2025年6月4日 | 公布と同時に一部を施行(第1章と第2章)※2 |
| 2025年9月1日 | 人工知能基本計画と人工知能戦略本部の規定を含めて全面施行※2 |
| 2025年12月19日 | 法律第13条に基づく指針を人工知能戦略本部が決定※4 |
| 2026年7月14日 | 第Ⅱ期の人工知能基本計画を閣議決定※5 |
附則第1条は、第3章(人工知能基本計画)と第4章(人工知能戦略本部)を、公布から3か月を超えない範囲で政令が定める日に施行すると定めていました※1。この日が2025年9月1日です。ニュースで「施行」と書かれている日付が記事によって違うのは、公布日の一部施行と、9月の全面施行のどちらを指しているかが異なるためです。
AI推進法の概要を簡単に — 4つの章で何が決まっているか
本則は第1条から第28条までの全28条で、4つの章に分かれています※1。条文の数は多くありませんが、どの章も主語は主に国であり、事業者や国民の行動を細かく縛る作りにはなっていません。
| 章 | 主な内容 | 企業との関わり |
|---|---|---|
| 第1章 総則(第1条〜第10条) | 目的、定義、基本理念、国・地方公共団体・研究開発機関・活用事業者・国民の責務 | 第7条で活用事業者の責務を定める |
| 第2章 基本的施策(第11条〜第17条) | 研究開発の推進、施設の整備と共用、適正性の確保、人材の確保、教育の振興、調査研究、国際協力 | 第13条の指針と、第16条の指導・助言が関わる |
| 第3章 人工知能基本計画(第18条) | 政府が定める計画の中身と、閣議決定・公表の手順 | 補助金や人材育成など、施策の方向を知る手がかりになる |
| 第4章 人工知能戦略本部(第19条〜第28条) | 内閣に置く本部の役割と組織 | 直接の関わりは少ない |
附則には施行期日のほか、施行の状況を検討し、必要があれば所要の措置を講じるという見直しの規定があります※1。今の形が固定されたものではないという点は、あとで触れる罰則の議論にも関わります。
「人工知能関連技術」の定義 — 生成AIも業務システムも含まれる
第2条は、人工知能関連技術を「人工的な方法により人間の認知、推論及び判断に係る知的な能力を代替する機能を実現するために必要な技術」などと定義しています※1。あわせて、入力された情報をその技術で処理して結果を出力する情報処理システムに関する技術も含めています。
この定義は特定の製品や方式を名指ししていないため、文章を作る生成AIだけでなく、画像の判定や需要の予測、書類の読み取りに使われるAIも広く当てはまると読めます。社内で「うちはAIを使っていない」と考えていても、会計ソフトや問い合わせ対応の仕組みにAIの機能が組み込まれていることは珍しくありません。一覧を作るときは、契約しているサービスの機能説明まで確かめると漏れが減ります。
国・自治体・研究機関・事業者・国民の責務 — 第4条から第8条
AI推進法は、AIに関わる5つの主体それぞれに責務を割り当てています※1。条文の言い回しを比べると、どこまで強く求めているかの違いが読み取れます。
| 主体 | 条文 | 主な内容 | 言い回し |
|---|---|---|---|
| 国 | 第4条 | 施策を総合的かつ計画的に策定し実施する。行政機関でAIを積極的に活用する | 責務を有する |
| 地方公共団体 | 第5条 | 区域の特性を生かした自主的な施策を策定し実施する | 責務を有する |
| 研究開発機関 | 第6条 | 研究開発と成果の普及、人材の育成に努め、国と自治体の施策に協力する | 努めるものとする |
| 活用事業者 | 第7条 | AIの活用による効率化・高度化と新産業の創出に努め、国と自治体の施策に協力する | 協力しなければならない |
| 国民 | 第8条 | AIへの理解と関心を深め、国と自治体の施策に協力する | 努めるものとする |
研究開発機関と国民が「努めるものとする」なのに対し、活用事業者の協力は「しなければならない」と書かれています。ただし、協力しなかった場合の罰則や命令の手続きは、法律のどこにも置かれていません。内閣府の概要資料も、責務の欄で「事業者は国等の施策に協力しなければならない」とだけ整理しています※3。
活用事業者とは — AIを業務で使う会社も含まれる
第7条は、活用事業者を「人工知能関連技術を活用した製品又はサービスの開発又は提供をしようとする者その他の人工知能関連技術を事業活動において活用しようとする者」と定めています※1。AIの製品を作って売る会社だけでなく、事業の中でAIを使おうとする会社も含まれる書き方です。
指針は、活用事業者には海外の事業者も含まれるとしています※4。一方で、指針の中で事業者向けの取り組みを並べた節は、主にAIを使った製品やサービスを開発し、提供する事業者を念頭に置いた書き方です。生成AIを契約して社内で使うだけの会社には、学習データの説明のように、そのまま当てはめにくい項目もあります。それでも、使い方の管理や障害への備えといった項目は、規模にかかわらず参考になります。
人工知能戦略本部 — 本部長は内閣総理大臣、全閣僚が本部員
第19条は、AIに関する施策を総合的かつ計画的に進めるため、内閣に人工知能戦略本部を置くと定めています※1。本部長は内閣総理大臣で、副本部長には内閣官房長官と人工知能戦略担当大臣が就き、ほかのすべての国務大臣が本部員になります。本部の事務は内閣府が処理します。
本部の仕事は、人工知能基本計画の案を作って実施を進めることと、重要な施策の企画立案と総合調整です※1。すべての大臣が加わる形になっているのは、AIの施策が行政、産業、教育、安全保障など多くの省庁にまたがるためだと考えられます。企業が直接やり取りする相手ではありませんが、指針や計画はこの本部が決めたり案を作ったりしたものなので、本部の会議の資料は今後の方向を知る材料になります。
AI推進法に罰則はあるか — 罰則がない理由と、ないことの意味
令和7年法律第53号の本則28条と附則を確かめると、罰金や過料を定めた条文はありません※1。事業者に報告を命じたり、違反した会社の名前を公表したりする規定も置かれていません。この法律は、規制を足すことよりも、国がAIの開発と活用を進めるための方針と体制を定めることに重心を置いています。
内閣府は、イノベーションの促進とリスクへの対応を両立させることを法律の狙いとして説明しています※2。概要資料は、目指す姿を「最もAIを開発・活用しやすい国」と表現しています※3。罰則で縛るよりも、指針や情報提供で事業者の自主的な取り組みを促す考え方だと読み取れます。
ただし、罰則がないことは、将来もないことを意味しません。附則第2条の見直し規定に加えて、第Ⅱ期の人工知能基本計画は、AI推進法を含めた制度を能動的かつ不断に見直すと書いています※5。社内のルールを決めるときは、今の条文だけでなく、見直しの動きを定期的に確かめる担当を決めておくと安心です。
AI推進法16条 — 調査・分析と、事業者への指導・助言
第16条は、国が国内外のAIの研究開発と活用の動向について情報を集めることを定めています※1。不正な目的や不適切な方法でAIが使われ、国民の権利利益が侵害された事案の分析と対策の検討も、国の役割としてここに入っています。そして、その結果に基づき、研究開発機関や活用事業者などに指導、助言、情報の提供その他の必要な措置を講じるとしています。
罰則のない法律の中で、事業者に直接働きかける根拠になるのがこの条文です。第Ⅱ期の計画は、第16条に基づく調査研究等をより機動的に運用すると明記しました※5。AIを使った製品やサービスで問題が起き、社会的な関心を集めた場合には、この条文を根拠に国から事実の確認や助言を求められることが考えられます。
罰則がなくても責任が消えるわけではない — 既存の法律との関係
第3条第4項は、AIが不正な目的や不適切な方法で使われた場合に、犯罪への利用や個人情報の漏えい、著作権の侵害を助長するおそれがあると書いています※1。これらはAI推進法ではなく、それぞれの分野の法律が扱う問題です。顧客の個人情報を外部のAIサービスに入力して漏えいさせた場合には、個人情報の保護に関する法律の問題として扱われます。
つまり、社内のAI利用で気をつけるべき点は、AI推進法に罰則がないことで軽くなるわけではありません。入力してよい情報や、生成物を社外に出すときの確認の手順は、社内のガイドラインで決めておく必要があります。条文の組み立て方は、生成AIの社内ガイドラインの作り方で詳しく扱っています。
AI指針(適正性確保に関する指針)で事業者に求められること
第13条に基づいて人工知能戦略本部が2025年12月19日に決めたのが「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」です※4。指針は、事業者や国民などすべての主体の自主的かつ能動的な取り組みを促すために、国際的な規範の趣旨に即して作られたものだと位置づけています。適正性の一義的な定義や絶対的な水準は定めず、各主体が規模や立場、AIのリスクに応じて適切な水準で対応することを求めています。
研究開発機関と活用事業者が特に取り組む事項として、指針は次の5つを挙げています※4。
| 項目 | 指針が求めていること | AIを使うだけの会社の読み方 |
|---|---|---|
| AIガバナンスによる適正性の確保 | 設計から提供までの全体で、リスクを特定・評価・対処する組織的な仕組みを作り、続けて改善する | 使っているAIと責任者を決め、経営層が状況を見られるようにする |
| 透明性の確保 | 学習データの出所や生成物について説明できるようにし、利用者に仕組みや限界、禁止事項を伝える | 取引先に出す成果物にAIを使った場合の説明の仕方を決める |
| 十分な安全性の確保 | 悪用や不適切な出力のリスクを評価し、対策をとる | 出力の確認手順と、誤りが見つかったときの連絡先を決める |
| 事業継続性の確保 | 障害に備えて事業継続計画をあらかじめ作る | AIのサービスが止まったときに手作業へ戻す手順を書いておく |
| データの持ち主への配慮 | 知的財産などのデータの持ち主と、データの使い方について対話を続ける | 社外の資料や画像を入力するときの扱いを決める |
指針は、AIガバナンスをゼロから作る必要はなく、既存のITシステムに使っている管理の仕組みを活用することも有用だとしています※4。情報セキュリティの規程や、パソコンとソフトの管理台帳がすでにある会社は、そこにAIの項目を足すところから始められます。
指針が示す10の要素 — 人間中心から公正競争まで
指針は、適正性を確保するときに考えるべき主な要素として、次の10項目を挙げています※4。
- 人間中心:人間の尊厳と基本的人権を尊重し、AIを使う範囲や条件は人間が最終的に判断する
- 公平性:不当な偏見や差別を生じさせたり、助長したりしない
- 安全性:生命、身体、財産などに危害を及ぼさない
- 透明性:必要かつ技術的に可能な範囲で情報を開示し、あとから検証できるようにする
- アカウンタビリティ:責任の所在を明らかにし、責任を果たす仕組みを作る
- セキュリティ:不正な操作による意図しない動作や停止のリスクを下げる
- プライバシー・個人情報:データの重要性に応じて保護し、関連する法令を守る
- 公正競争:資源が集中した立場を利用した不公正な取引をしない
- AIリテラシー:便益を大きくしながらリスクを抑えるための知識と能力、倫理観を身につける
- イノベーション:持続可能性に配慮しながら、技術の発展と社会課題の解決に貢献する
基本方針としては、リスクに応じて対策の強さを変える「リスクベース」と、計画・実行・評価・改善を繰り返して柔軟に対応する「アジャイル」などが示されています※4。中小企業が10項目すべてに同じ力をかける必要はありません。顧客の個人情報を扱う業務や、採用・評価のように人に影響する判断にAIを使う場面から、優先して手当てするのが現実的です。
AI事業者ガイドラインとの関係 — 指針を具体化した手引きとして使う
指針は、事業者が国際的な規範や国際規格、各種ガイドラインを活用しながら取り組むことを求めています※4。その代表が、総務省と経済産業省がまとめたAI事業者ガイドラインで、2026年3月31日に第1.2版が公表されました※6。経済産業省のページでは、本編と別添のほかに、チェックリストとワークシート、活用の手引き(案)も配布されています。
指針が「何を大切にするか」を示す文書だとすれば、AI事業者ガイドラインは「具体的に何を確かめるか」を示す手引きです。社内のルールを作るときは、指針の5つの事項を見出しにして、チェックリストの中から自社に当てはまる項目を選ぶと、抜けの少ない形になります。AIエージェントのように操作まで任せる仕組みを入れる場合の注意点は、AIエージェントとはで整理しています。
人工知能基本計画(第Ⅱ期)と中小企業への影響
第18条に基づく人工知能基本計画は、最初の計画が2025年12月23日に閣議決定され、2026年7月14日に第Ⅱ期の計画が閣議決定されました※5。第Ⅱ期の計画は、AIを前提に意思決定や業務の進め方を根底から見直す「AIトランスフォーメーション(AX)」を掲げています。施策は、AIを使う、AIを創る、AIの信頼性を高める、AIと協働する、の4つの方針にまとめられています。
| 計画の記載 | 中小企業との関わり |
|---|---|
| デジタル化・AI導入補助金などによる中堅・中小企業のAI導入の支援 | AIツールの導入費用の一部に、国の補助を使える可能性がある |
| 伴走支援を行う支援機関のAI支援の水準の底上げ | 商工会議所や支援機関に相談しやすくなる方向 |
| 中堅・中小企業を含む企業のDXとAI活用の取り組み状況の可視化 | 取引先や金融機関から取り組みを尋ねられる場面が増えることが考えられる |
| 事業者が自ら苦情受付体制を整えるための施策 | AIを使ったサービスを提供する会社は、問い合わせの窓口を決めておく必要がある |
| すべての国民がAI適正活用人材を目指すという人材像の整理 | 社員向けのAI研修の目標を立てるときの参考になる |
表の内容は、いずれも計画の本文に書かれている施策です※5。補助金の公募要領や対象となる経費は年度ごとに変わるため、申請を考えるときは、その年度の公募要領で条件を確かめてください。
最初の計画から第Ⅱ期で変わったこと — エージェント型AIとAX
最初の計画は「『信頼できるAI』による『日本再起』」を副題に掲げ、イノベーションの促進とリスクへの対応の両立、アジャイルな対応、内外一体での政策推進の3つを原則としていました※8。第Ⅱ期の計画は副題を「日本AX、より強く、より豊かに」に改め、原則に「挑戦と学習」を加えて4つにしています※5。
第Ⅱ期では、目標を受け取って業務を自律的に進めるエージェント型AIが急速に伸びていることが、計画全体の前提に置かれました※5。計画は、エージェント型AIによってリスクが複雑化かつ深刻化しているとし、責任の所在の曖昧化や不具合の連鎖による大規模障害を例に挙げています。AIに操作まで任せる仕組みを入れる会社ほど、人が確かめる場所と責任者を先に決めておく意味が大きくなります。
計画は当面毎年変わる — 見直しを追う担当を決める
第Ⅱ期の計画の概要には、計画を当面毎年変更し、適切なベンチマークを設定してモニタリングすると書かれています※5。AI推進法の附則にも見直しの規定があるため、法律と計画の両方が、技術の変化に合わせて変わっていく前提で読む必要があります。
実務では、総務や情報システムの担当者を1人決め、内閣府のAI戦略のページと経済産業省のAI事業者ガイドラインのページを、半年に1回確かめる運用で十分に追いかけられます。更新があったときは、社内ガイドラインのどの条項に関わるかを書き出し、必要なら改訂する流れを決めておきます。
EUのAI法との違い — 罰則の有無と規制の形
「AI法」と検索すると、EUのAI法(規則2024/1689)の情報も多く出てきます。EUのAI法は、AIをリスクの大きさで分け、許されない使い方の禁止や、リスクの高いAIへの義務を定めた規則です※7。日本のAI推進法とは、法律の役割そのものが異なります。
| 比べる点 | 日本のAI推進法 | EUのAI法 |
|---|---|---|
| 法律の性格 | 国の施策の方針と体制を定める基本法 | 事業者に義務を課す規則で、EU加盟国に直接適用される |
| 事業者への求め | 国と自治体の施策への協力(第7条) | 禁止される使い方、リスクの高いAIの要件、AIリテラシーの確保など |
| 罰則 | 規定はない | 禁止に違反した場合、最大3,500万ユーロまたは前年度の全世界売上高の7%のいずれか高い額の制裁金 |
| 適用の時期 | 2025年9月1日に全面施行 | 公布時の本文では2026年8月2日から適用。禁止の規定は2025年2月2日から |
EUのAI法の第4条は、AIを提供する事業者と業務で使う事業者に、従業員のAIリテラシーを十分な水準にする措置を求めています※7。EU域内の顧客にAIを使ったサービスを提供する会社や、EU域内に拠点を持つ会社は、日本の法律とは別にEUの規則の対象になり得ます。適用の時期は見直しの議論もあるため、EUと取引がある場合は最新の情報を確かめてください。
中小企業がいま決めておくこと — 一覧・責任者・確認の手順
AI推進法そのものは中小企業に新しい手続きを求めていませんが、指針と計画を読むと、今のうちに整えておくと後で困らない事項が見えてきます。次の5つは、専任の担当者がいない会社でも1か月ほどで形にできる範囲です。
- 使っているAIの一覧を作る:サービス名、使っている部署、入力しているデータの種類、契約の形(無料・有料・法人契約)を表にまとめる
- 責任者を1人決める:指針のAIガバナンスの考え方に沿って、一覧の更新と相談の受付を担う人を決め、経営者に報告する頻度も決める
- 入力してよい情報と禁止する情報を決める:個人情報や取引先の秘密情報の扱いを、社内ガイドラインに書く
- 出力を確かめる手順を決める:社外に出す文書や数値は、人が元の資料と照らして確かめてから使う
- 止まったときの手順を書く:AIのサービスが使えなくなったときに、手作業へ戻す方法と連絡先を残す
社員の知識をそろえることも欠かせません。指針はAIリテラシーを適正性の要素の1つに挙げ、計画もすべての国民がAI適正活用人材を目指すとしています※4※5。研修の内容を決めるときは、ツールの操作方法だけでなく、入力してよい情報と出力の確かめ方を必ず含めると、社内ルールと研修がつながります。社員の学び直しの進め方は、AIリスキリングとはも参考にしてください。
取引先や顧客に聞かれたときの答え方
AI推進法の施行や計画の公表をきっかけに、取引先から「AIをどう管理しているか」と尋ねられる場面が増えることが考えられます。そのときに、使っているAIの一覧と責任者、入力の決まり、出力の確認の手順を示せれば、取り組みを具体的に説明できます。
反対に、「法律に罰則がないので特に対応していない」という答えは、相手に不安を与えかねません。説明の材料として、一覧と社内ガイドラインを1枚にまとめた資料を用意しておくと、営業や採用の場面でも使えます。業務のどこにAIを使っているかを洗い出す手順は、AIで効率化できる業務の見極め方と棚卸しの手順で扱っています。
まず1か月で、使っているAIの一覧と責任者を決める
AI推進法は、事業者に罰則を科す法律ではありません。その一方で、国は指針と毎年の計画を通じて、事業者が自主的にリスクを管理し、AIの活用を進めることを求めています。法律と指針の両方を読んだうえで、最初の一歩として社内で使っているAIの一覧を作り、その一覧を更新する責任者を決めるところから始めてください。
よくある質問
正式名称を「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」といい、令和7年法律第53号として2025年6月4日に公布されました。AIの研究開発と活用を国として進めるための基本理念、国や事業者などの責務、基本的施策、人工知能基本計画、人工知能戦略本部を定めた法律です。
条文に罰則の規定はありません。事業者に報告を命じる規定や、違反した会社の名前を公表する規定もありません。ただし、第16条に基づき、国が権利侵害の事案を分析し、事業者に指導や助言を行うことは定められています。附則には見直しの規定もあるため、今後の改正の動きは確かめておく必要があります。
2025年6月4日の公布と同時に第1章と第2章などが施行され、2025年9月1日に人工知能基本計画と人工知能戦略本部の規定を含めて全面施行されました。施行日として2つの日付が出てくるのは、一部施行と全面施行のどちらを指すかの違いです。
国が国内外のAIの動向について情報を集め、不正な目的や不適切な方法でAIが使われて国民の権利利益が侵害された事案を分析し、対策を検討することが書かれています。その結果に基づいて、研究開発機関や活用事業者などに指導、助言、情報の提供その他の必要な措置を講じるとしています。
第7条は、AIを使った製品やサービスを開発・提供する者に加えて、事業活動でAIを活用しようとする者を活用事業者としています。業務で生成AIを使う会社も含まれる書き方です。求められるのはAIの活用に努めることと、国と地方公共団体の施策に協力することです。
AI推進法第13条に基づき、人工知能戦略本部が2025年12月19日に決定した「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」のことです。人間中心や透明性など10の要素と、事業者・国・国民がそれぞれ特に取り組む事項を示しています。
AI推進法は国の方針と体制を定めた法律で、AI事業者ガイドラインは総務省と経済産業省がまとめた、事業者がAIを開発・提供・利用するときの具体的な手引きです。指針は、事業者に各種ガイドラインを活用しながら取り組むことを求めており、ガイドラインのチェックリストは社内ルールを作るときに使えます。
日本のAI推進法は国の施策を進めるための基本法で、罰則はありません。EUのAI法はAIをリスクで分けて事業者に義務を課す規則で、禁止された使い方に違反すると最大3,500万ユーロまたは前年度の全世界売上高の7%のいずれか高い額の制裁金が定められています。
法律が新しい手続きを求めているわけではありませんが、指針に沿って、使っているAIの一覧を作り、責任者を決め、入力してよい情報と出力の確認手順を社内ガイドラインに書いておくと安心です。あわせて、社員がAIの限界と注意点を理解できるよう研修の機会を設けるとよいでしょう。
参考文献
- ※1 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(令和7年法律第53号) e-Gov法令検索(デジタル庁)(2026.10.19確認)
- ※2 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法) 内閣府(2026.10.19確認)
- ※3 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)の概要 内閣府(2026.10.19確認)
- ※4 人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針(令和7年12月19日 人工知能戦略本部決定) 内閣府(2026.10.19確認)
- ※5 人工知能基本計画 日本AX、より強く、より豊かに(令和8年7月14日 閣議決定) 内閣府(2026.10.19確認)
- ※6 AI事業者ガイドライン(第1.2版) 経済産業省・総務省(2026.10.19確認)
- ※7 Regulation (EU) 2024/1689 (Artificial Intelligence Act) EUR-Lex(欧州連合)(2026.10.19確認)
- ※8 人工知能基本計画(概要)「信頼できるAI」による「日本再起」(令和7年12月23日 閣議決定) 内閣府(2026.10.19確認)
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