Column

ロジカル・クリティカル・ラテラル — 3つの思考法の違いと使い分け

最終更新日 2026.05.26

監修:株式会社UNPLACED

思考法の名前は増えましたが、どれをいつ使うのかを説明できる人はそれほど多くありません。ロジカル・クリティカル・ラテラルの3つは競合する流派ではなく、担当している仕事が違います。筋道を通す、前提を疑う、枠を外す。目の前の問題がどの型なのかが分かれば、選ぶべき思考法は決まります。3つの違いと、組み合わせて使うための手順を整理します。

結論:3つは対立しない。問題の性質で選ぶ

ロジカルシンキング、クリティカルシンキング、ラテラルシンキング。3つが並ぶと「どれが優れているのか」を考えたくなりますが、この3つは競合する流派ではありません。担当している仕事がそれぞれ違うだけです。

  • ロジカルシンキング(論理的思考)… 筋道を通す。主張と根拠のつながりを崩さずに積み上げ、聞き手がたどれる形にします。
  • クリティカルシンキング(批判的思考)… 前提を疑う。結論を出す前に、自分がどう考えたのかを点検します。
  • ラテラルシンキング(水平思考)… 枠を外す。いま並んでいる選択肢の外側に、別の選択肢を作りにいきます。

どれを使うかは好みではなく目の前の問題の性質で決まります。答えは出ているのに説明できていないならロジカル、結論らしきものはあるが前提が怪しいならクリティカル、そもそも選べる案が足りないならラテラルです。

実務では1つだけを使う場面は少なく、ラテラルで広げ、ロジカルで絞り、クリティカルで点検するという往復になります。1つの流れの中の役割分担として覚えるほうが使えます。

この記事の位置づけ
それぞれの中身はロジカルシンキングとはクリティカルシンキングとはラテラルシンキングとはで個別に扱っています。

3つの定義を、もう少し正確に

ロジカルシンキング(論理的思考)

学術的に定義が1つに定まった用語というより、主張と根拠のつながりを崩さずに考える態度と、そのための型の総称として使われている言葉です。中核にあるのは、一般的な前提から個別の結論を導く演繹と、個別の事実から一般的な結論を導く帰納の2種類の推論だと整理されることが多くなっています。

クリティカルシンキング(批判的思考)

こちらは学術用語としての蓄積があります。認知心理学の整理では、批判的思考は規準にしたがう、論理的で偏りのない思考であり、日常語の「相手を批判する」思考という狭い意味ではなく、何を信じ、主張し、行動するかの決定に焦点を当てる思考だと説明されています※3。あわせて、自分の推論過程を意識的に吟味する反省的な思考という側面が強調されます※3※4

ここが日本語の語感とずれます。「批判」から連想されるのは他人への攻撃ですが、向く先はまず自分の推論です。取り違えると、研修をやってもチームの雰囲気が悪くなるだけで終わります。

ラテラルシンキング(水平思考)

日本語では水平思考と訳されます。エドワード・デボノの著作が1969年に『水平思考の世界——電算機時代の創造的思考法』として邦訳されており※6、そこから広まった言葉として扱われることが多いようです。論理を縦に積み上げる思考に対し、横に動いて別の入口を探すという含意があります。

ただし「ひらめき」と同義ではありません。発想の研究では、発想力は個人の才能や能力以上に方法論や手法を適切に利用できるかどうかにかかっているとされ、訓練によって誰でも習得できるものだと整理されています※5

違いを一覧で見る

3つを同じ軸で並べます。まず、目的と、頭の中で立てる問いから。

目的中心にある問い出てくるもの
ロジカル結論を、他人がたどれる形にするなぜそう言えるのか/だから何なのか主張と根拠の構造
クリティカル結論の質を上げるその前提は本当か/論点はずれていないか点検済みの結論と保留事項
ラテラル選択肢そのものを増やすほかにやり方はないか/前提を外すとどうなるか案の数と新しい切り口

次に、効く場面と崩れ方です。

効く場面陥りやすい失敗相性のよい道具
ロジカル説明・報告・提案前提が誤っていても筋は通る。整った説明が正しさに見えるロジックツリー、ピラミッド構造、MECE
クリティカル意思決定の直前。数字やAIの出力を受け取ったとき粗探しに変質し、何も決まらなくなる情報源の確認、用語の定義、反証の探索
ラテラル案が2つしかないとき広げただけで終わり、実行可能性の検討に戻れないブレインストーミング、チェックリスト法、類比

失敗の形が補い合っていることが分かります。ロジカルの弱点(前提を疑わない)はクリティカルが、クリティカルの弱点(決まらない)はロジカルが、両者に共通する弱点(既存の選択肢の中だけで探す)はラテラルが埋めます。併用が前提になります。

なぜ「違い」が分かりにくくなるのか

3つの違いを説明しようとすると、どこかで必ず重なります。どこが重なり、どこで分かれるのかを先に押さえます。

組み合わせ重なるところ分かれるところ
ロジカル と クリティカルどちらも論理を使うロジカルは組み立てる側、クリティカルは点検する側。矛先が自分にも向くのがクリティカル
クリティカル と ラテラルどちらも前提を疑う疑う目的が違う。結論を確かにするためか、選択肢を増やすためか
ロジカル と ラテラル最後は説明できる形を目指す既にある選択肢を絞るのがロジカル、選択肢を作るのがラテラル

学術的にも重なりは認められています。批判的思考は、帰納的推論を中心とする推論や評価を包括し、演繹的推論をはじめとする形式論理をも統合した思考だと説明されています※4。つまりクリティカルはロジカルを内包しており、排他的な関係ではありません。創造との関係も同様で、批判的思考は創造的思考の十分条件ではないが必要条件であり、創造的思考には批判的なフィルタが働いているという整理があります※4

用語の来歴がばらばらであることも一因です。批判的思考は心理学・教育学の研究語、水平思考は翻訳を経て広まった語、ロジカルシンキングは実務で定着した総称です。もともと同じ体系の中の分類ではないので、役割の違いとして理解すれば足ります。

どれを使うか — 判断の手順

使い分けの判断は、次の4ステップで足ります。

1困りごとを一文で書く
2困りごとの型を判定する
3主に使う思考法を決める
4残り2つを点検役に回す

最初の一文を飛ばすと以降が空回りします。批判的思考の手順でも、推論を始める前に問題・仮説・主題を明確化し、用語を定義することが最初に置かれています※4。「営業がうまくいっていない」では判定できませんが、「初回訪問から提案までが3か月かかっている」なら判定できます。

困りごとの言い方問題の型主に使う
説明しても伝わらない/話が飛ぶと言われる筋道が通っていないロジカル
結論は出たが、本当にこれでよいか不安前提が点検されていないクリティカル
議論が噛み合わない/同じ言葉で別の話をしている論点と定義がずれているクリティカル
案が2つしかない/どれも既視感がある選択肢が足りないラテラル
そもそも何が問題なのか分からない問題が定義されていないクリティカル → ラテラル
やることは決まったが、順番と担当が決まらない構造化されていないロジカル

「3つ全部を意識する」と決めると、たいてい何も変わりません。その場では1つを主役にし、残りを点検役に回します。ロジカルで組み立てたら、最後にクリティカルで前提を1回だけ疑います。ラテラルで広げたら、ロジカルで絞ります。主役を決めたうえで、脇役を1つ足す——この程度の運用が現実的です。

ロジカルシンキング — 筋道を通す

中身は主張・根拠・事実の三層を崩さないことに尽きます。主張には根拠があり、根拠には事実があります。この対応が切れている状態が「話が飛んでいる」と言われる状態です。使われる型は、詳細は個別記事に譲りますが、名前だけ挙げておきます。

  • MECE… 漏れがなく重なりもない状態を目指す考え方。分類の粗さを自分で検査する道具です。
  • ロジックツリー… 課題を上位から下位へ枝分かれさせて分解します。原因にも打ち手にも使えます。
  • ピラミッド構造… 結論を頂点に置き、その下に根拠を並べます。結論から話す形に対応します。
  • 演繹と帰納… どちらの推論を使っているかを自覚するだけで、飛躍の位置が見えやすくなります。

効きどころは説明の再現性です。筋道が通っていれば聞き手がたどり直せます。たどり直せれば、どこに納得できないかを相手が指摘でき、議論が前に進みます。

一方で限界もはっきりしています。前提が誤っていても、筋は通ります。「市場は縮小している」という誤った前提から出発すれば、その後の論理がどれだけ整っていても結論は外れます。しかも整った説明ほど、正しさの証拠のように見えてしまいます。この穴を塞ぐのがクリティカル、前提の外に選択肢を作るのがラテラルです。型の詳細と訓練の手順はロジカルシンキングとは — MECE・ピラミッド構造・演繹と帰納で扱っています。

クリティカルシンキング — 前提を疑う

批判的思考は規準にしたがう論理的で偏りのない思考であり、相手を批判する思考とは限らず、むしろ自分の推論過程を意識的に吟味する反省的な思考として説明されます※3。ここを取り違えないことが出発点です。認知心理学の整理では、その過程は4つに分けられています※4

過程やること職場での言い換え
1. 明確化問題・仮説・主題に焦点を当てる。論証を分析する。用語を定義する。前提を同定する「今日は何を決める会議か」「言葉の定義を揃えよう」
2. 推論の基盤の検討情報源の信頼性を判断する。観察や報告を評価する「その数字はどこから来たのか」
3. 推論演繹・帰納・価値判断を行う。一般化の限界やサンプリングを考慮する「3件の事例から全体を言えるか」
4. 行動の決定問題を定義し、判断の規準を選び、解決策を複数作り、仮に決めて、状況全体を踏まえて再吟味する「1つに絞る前に判断基準を言葉にしよう」

注目したいのは、4つ目に「解決策を複数形成し」が入っていることです。案が1つしかない状態で良し悪しを判断しても、判断したことになりません。ここでラテラルシンキングが必要になります。

また、批判的思考は能力だけでは十分に発揮されず、態度が要るとされています。明確な主張や理由を求める/信頼できる情報源を利用する/状況全体を考慮する/複数の選択肢を探す/開かれた心をもつ/証拠や理由に立脚した立場をとるといった構えです※4。技法だけを教えても定着しにくいのは、この情意的な側面が育っていないためだと考えられます。前提の疑い方はクリティカルシンキングとは — 前提を疑い、結論の質を上げる技術で詳しく扱っています。

ラテラルシンキング — 枠を外す

「才能」として扱うと話が終わるので、手順として扱うために発想の研究の枠組みを借ります。知能の構造を整理した古典的なモデルでは、情報に加えられる操作が認知・記憶・発散的思考・収束的思考・評価の5つに分類されます。発散的思考は多種多様な解決策を生み出す思考、収束的思考は正しい答えに解決策をまとめていく思考とされ、発散と収束を繰り返しながら解決策を創り出していくのが問題解決だと整理されています※5

ラテラルシンキングが担当するのは、この発散の側です。発想の技法は発散技法と収束技法に分けて整理されるのが一般的で、発散技法はさらに3つに分けられています※5

やり方代表的な手法
自由連想法あるテーマについて、思いつくまま次々に出すブレインストーミング、ブレインライティング法
強制連想法考えるべき視点をあらかじめ示し、そこに強制的に結びつけて発想するチェックリスト法、形態分析法
類比発想法テーマと本質的に似たものをヒントにして発想するNM法、シネクティクス

職場で効きやすいのは強制連想法です。自由に出せと言われて出せる人は限られますが、「順番を逆にしたら」「相手が自分でやるとしたら」「予算がゼロなら」といった視点を用意しておけば、誰でも一定数の案は出せます。

もう一つ、新しいアイデアはゼロから生み出されるものではなく既存のアイデアの組合せにすぎず、組合せ方そのものが創造でありオリジナリティであるという考え方も押さえておきたいところです※5。何もないところからひらめこうとするより、手元の要素を入れ替える・逆転させる・関係ないものと組み合わせるほうが再現性があります。広げ方の型はラテラルシンキングとは — 発想の枠を外して選択肢を増やす技術にまとめています。

思考法の使い分けを表すイメージ。左に棒グラフや円グラフの資料とリングノート、中央に半透明の白い布のねじれ、点と線の網と白い球が浮かんでいる

会議での使い分け

使い分けが最も効くのは会議です。会議の目的と思考法が噛み合っていないことが、多くの「時間の無駄な会議」の正体だと考えられます。

会議の種類目的主に使うやってはいけないこと
広げる会議案を増やすラテラル出た案をその場で評価する
絞る会議案を比較して1つに寄せるロジカル新しい案を持ち込む
点検する会議決めかけた結論の前提を確かめるクリティカル担当者個人の姿勢を問題にする
報告する会議状況を共有するロジカル報告の途中で議論を始める

いちばん多い事故は、広げる会議と絞る会議を同じ時間帯に混ぜてしまうことです。案が出た瞬間に「それはコストが」と返ると、以降は誰も案を出しません。発散と収束は繰り返すものですが、同時にやるものではありません※5。アジェンダに「前半は広げる、後半は絞る」と書き、切り替えの合図を出すだけで会議の質は変わります。

点検する会議にも注意が要ります。批判的思考の矛先は本来自分の推論に向くものですが※3、会議で使うと他人の案に向きます。「案を点検している」のか「人を評価している」のかが曖昧だと、次から誰も案を持ってきません。点検の対象は案と前提であって、提案者ではないと最初に宣言しておくとよいでしょう。

進行役の言葉も用意しておくと運用しやすくなります。広げる場面では「ほかにやり方はないか」、絞る場面では「なぜそう言えるのか」、点検する場面では「その前提は本当か」。3つを使い分けるだけで、今どのモードなのかが参加者に伝わります。

企画・アイデア出しでの使い分け

企画づくりは、3つの思考法の順番がそのまま作業手順になる典型です。

段階やること主に使う成果物
1. 問いを定める何を解くのかを一文にし、用語を定義するクリティカル解くべき問いの一文
2. 広げる視点を変えて案を数多く出す。評価しないラテラル案のリスト(数を優先)
3. 束ねる似たもの同士でまとめ、切り口を作るロジカル整理された選択肢
4. 絞る判断の規準を先に決めてから比較するロジカル推す案と、その根拠
5. 点検する前提・情報源・飛躍を確かめるクリティカル保留事項と確認先

3の「束ねる」で使う型は2つあります。収束の技法は、内容が似ているかどうかで集める空間型と、流れとしてまとめる系列型に分けられます。空間型はさらに、決まった分類に従って集める演繹法と、似たもの同士を集めて新しい分類を作り出す帰納法に分かれ、系列型には因果でつなぐ因果法と時間でつなぐ時系列法があります※5。既存のカテゴリで整理してよいなら演繹法、新しい切り口を見つけたいなら帰納法。原因と結果を示したいなら因果法、段取りを示したいなら時系列法です。

4の「絞る」では、判断の規準を先に言葉にしておきます。案を見てから基準を作ると、好みが基準の顔をして紛れ込みます。批判的思考の手順でも、判断のための規準の選択が解決策の形成より前に置かれています※4

5の「点検する」は、結論を覆すための工程ではありません。どこが確かで、どこが未確認なのかを分ける工程です。「この前提は未確認なので来週までに確かめる」と書ければ、企画は前に進みます。

トラブル対応での使い分け

トラブル対応は時間の制約が強く、思考法を意識する余裕がない場面に見えます。ですが局面ごとに必要な思考は違うので、順番を決めておくと迷いが減ります。

局面立てる問い主に使う
初動何が起きたのか。それは誰が、いつ確認したのかクリティカル
原因の特定どの経路でそうなったのか。ほかに説明はつかないかロジカル+クリティカル
応急の打ち手いま取れる手はほかにないか。制約を1つ外すとどうなるかラテラル
恒久対策なぜこの仕組みで起き得たのか。どの前提が崩れていたのかクリティカル
報告事実・推定・未確認をどう書き分けるかロジカル

初動でクリティカルを使うのは、事実と伝聞を分けるためです。批判的思考の過程には、推論を支える情報源の信頼性を判断し、観察や観察報告を評価する工程が含まれています※4。初動では伝聞が事実として流通しやすく、「誰が直接見たのか」を一度確認するだけで後の手戻りが減ります。

応急の打ち手でラテラルが要るのは、制約が多い場面ほど選択肢が早く尽きるからです。「予算がない」「人がいない」「今日中」の下では、案が1つか2つで止まります。「その制約を1つだけ外せるとしたら、どれを外すか」と問うと、結果として外さずに済む代替案が見つかることがあります。

恒久対策では、個人の不注意で片づけないことが要点です。「気をつける」で終わる再発防止策は、前提の点検を飛ばした結果であることが多いものです。どの前提が崩れたのかを1つ特定できれば、対策は具体的になります。

思考法の使い分けを表すイメージ。一つの黒い点から透明な流線が広がっていく抽象的なイメージ

併用のしかた — 広げる・絞る・点検する

ここまでの具体例に共通する型を、あらためて1つにまとめます。

広げるラテラル:案の数を増やす
絞るロジカル:基準を決めて比べる
点検するクリティカル:前提と飛躍を確かめる

ただし一方通行ではありません。点検した結果、案が足りないと分かればラテラルに戻ります。批判的思考の過程にも「解決策を複数形成し」が含まれており※4、発散と収束を繰り返しながら解決策を創り出すという整理※5とも一致します。

段階終わってよい条件戻るべきサイン
広げる質を問わない案が、当初の想定より多く出ている同じ発想の言い換えばかりになった
絞る判断の規準が言葉になっていて、順位の理由を説明できる比べる前に結論が決まっていた
点検する未確認の前提が一覧になり、確認担当と期限が決まっている前提を外すと案が成立しないと分かった

時間配分も決めておくとよいでしょう。1時間の検討なら、広げる20分・絞る25分・点検する15分といった具合です。点検の時間を先に確保しておかないと、この工程は必ず省略されます。そして実行段階で前提の誤りが露見します。

なお、批判的思考は創造的思考の十分条件ではないが必要条件であり、創造的思考には批判的なフィルタが働いているという整理があります※4。点検は発想の敵ではありません。点検があるから、広げた案を安心して実行に移せると考えたほうがよいでしょう。

3つを支える共通の土台

思考法だけを教えても効果が出にくいのは、土台が共通しているからです。土台は3つあります。

言葉の定義を揃えること

批判的思考の最初の工程には、用語の定義と前提の同定が含まれています※4。「効率化」「品質」「顧客満足」といった語が参加者ごとに別の意味で使われている状態では、どの思考法も機能しません。議論の前に用語を1つか2つ定義するだけで、噛み合わなさの多くは消えます

情報の質を見分けること

推論の基盤として、情報源の信頼性を判断する工程が置かれています※4。専門家によるものか、異なる情報源の間で一致しているか、確立した手続きをとっているか——といった観点です。組み立てが整っていても、入力が不確かなら結論も不確かになります。

業務の知識を持っていること

見落とされやすいのがここです。批判的思考の研究では、推論に関わる手続き的知識やスキルである領域普遍知識と、内容を理解し評価するための領域固有知識が区別され、批判的思考の原理や規準は領域普遍だが、適用するときには領域固有知識が必要になるとされています※4。実務に引き直せば、思考法だけを覚えても、自社の業務を知らなければ使えないということです。汎用の演習だけで研修を終わらせると「面白かったが職場では使えない」という感想になりやすいのは、この構造によるものと考えられます。

公的な整理とも接続しておきます。経済産業省が2006年に提唱した「社会人基礎力」は、「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力(12の能力要素)から構成され※1、このうち「考え抜く力」に含まれるのが課題発見力・計画力・創造力です※1。学校教育の側でも、育成を目指す資質・能力の柱の1つとして「思考力、判断力、表現力等」が置かれています※2

生成AIが入ると、何が変わるか

生成AIが日常的に使われるようになって、3つの思考法の重みは変わりつつあります。断定はできませんが、実務上の傾向として次のように整理できます。

AIが担いやすい部分人に残りやすい部分
ロジカル構造化、分解、体裁の整った説明文の作成前提の設定、どの分解軸を選ぶかの判断
クリティカル反対意見の列挙、見落としの洗い出し情報源の確認、自社の文脈での妥当性判断、最終責任
ラテラル案の数を出す、遠い分野からの類比を挙げる実行可能性の見極め、自社で本当に効く案の選別

いちばん注意すべきなのは、ロジカルの外形が簡単に手に入るようになったことです。整った説明文は、それだけでは正しさの証拠になりません。前提が誤っていても筋は通るという弱点はAIの出力でもそのまま当てはまり、むしろ文章が滑らかな分だけ疑いにくくなります。

だからこそ、情報源の信頼性を判断し、異なる情報源の間で一致しているかを見る工程※4の重要性が上がっていると考えられます。AIの出力に含まれる数値や固有名詞は、一次情報に当たって確かめる前提で扱うのが安全です。一方、案の数を出すことにAIは向いています。どの案が自社で本当に効くかは、領域固有知識を持つ人にしか判断できません※4。案出しをAIに任せ、選別を人が担う分担が現実的でしょう。管理職の役割の変化はAI時代に管理職に求められる役割の変化で扱っています。

研修での学び方と、職場への定着

スキル・知識・態度の3層で設計する

批判的思考の構成要素は、能力とスキルおよび知識からなる認知的側面と、態度・傾向性からなる情意的側面に分けて説明されています※4。技法だけを教えると、知識としては残っても行動が変わりません。「複数の選択肢を探す」「明確な主張や理由を求める」といった構えを、演習の中で繰り返し要求する設計が要ります※4

自社の題材を使う

思考の原理は領域普遍でも、適用には領域固有知識が要ります※4。加えて、思考スキルの構成要素だけを訓練するより、ある領域の問題解決過程全体の中で教授するほうが効果が高いという指摘があります※4。パズル形式の演習は導入には有効ですが、それだけで終えると職場に転移しにくくなります。自社の実際の案件を題材にする時間を必ず入れてください。

測り方の限界を知っておく

多肢選択形式の批判的思考力テストは読解や数学の能力テストとの相関が高く、文章の読解と限られた範囲の思考スキルの測定にとどまるという限界があります。仮説を生成したり検証したりする能力や、傾向性(態度)の変化は捉えられないともされています※4。記述式は総合的な能力に近づけますが、実施と採点に労力を要し、思考能力と作文スキルの分離が難しくなります※4テストの点数を研修の成否の唯一の指標にしないほうがよいでしょう。会議で「その前提は」という発言が出るようになったか、企画書に判断の規準が書かれるようになったか——といった行動の変化を併せて見る設計にします。

職場に埋め込む

研修だけでは定着しません。負荷の小さいものから、業務の中に仕掛けを埋めておきます。

  • アジェンダにモードを書く。「前半:広げる/後半:絞る」と1行書くだけで、今どのモードかを共有できます。
  • 3つの問いを掲示する。「ほかにやり方はないか」「なぜそう言えるのか」「その前提は本当か」。誰でも進行の合図が出せます。
  • 企画書の様式に欄を足す。「判断の規準」「検討した他案」「未確認の前提」の3欄。書けない欄があれば、その工程が飛ばされたと分かります。
  • 点検の対象を明示する。「点検するのは案と前提であって、提案者ではない」と宣言します。これがないと人格批判に読み替えられます。
  • 振り返りを短く回す。案件が終わったら「どの前提が外れたか」を1つ書き残します。積み上がると自社の傾向が見えてきます。

逆に、思考法の習熟度を人事評価の項目に直接持ち込むことは避けたほうがよいでしょう。評価の対象になると使うこと自体が目的化し、形式だけのフレームワークが増えます。測るべきは判断の質と手戻りの少なさであって、フレームワークの使用回数ではありません。

よくある誤解

最後に、3つの思考法をめぐって繰り返し見かける誤解を整理します。

  • 誤解1:どれかが優れている。役割が違うだけです。批判的思考は演繹をはじめとする形式論理をも統合した思考だとされており※4、そもそも排他的な分類ではありません。
  • 誤解2:クリティカルシンキングは人を批判すること。批判的思考は「相手を批判する思考」とは限らず、自分の推論過程を意識的に吟味する反省的な思考として説明されます※3。矛先はまず自分に向きます。
  • 誤解3:ラテラルシンキングはひらめきの才能。発想力は個人の才能や能力以上に、方法論や手法を適切に利用できるかどうかにかかっており、訓練で習得できるものだと整理されています※5
  • 誤解4:筋が通っていれば正しい。前提が誤っていても筋は通ります。整った説明ほど疑いにくいため、点検の工程を別に確保する必要があります。
  • 誤解5:思考法を学べば業務知識は要らない。思考の原理は領域普遍でも、適用には領域固有知識が必要になります※4。業務を知っている人ほど効果が出やすいということでもあります。
  • 誤解6:フレームワークを覚えることが目的。MECEやロジックツリーは、自分の分類の粗さを検査する道具です。埋めることが目的化すると、様式だけが残ります。
  • 誤解7:1回の研修で身につく。態度・傾向性の変化は短期のテストでは捉えにくいとされています※4。日常の会議や文書の様式に組み込み、使う機会を作り続けるほうが確実です。

3つの思考法は、特別な才能を前提とした技術ではありません。どの場面でどれを使うかを決めておくことと、使う機会を業務の中に埋め込むこと。この2つが揃えば、考える力は組織の側に蓄積していきます。

よくある質問

組み立てる側か、点検する側かの違いです。ロジカルシンキングは主張と根拠のつながりを崩さずに結論を積み上げます。クリティカルシンキングは、その結論に至る自分の推論過程を意識的に吟味し、前提や論点のずれを確かめます。批判的思考は形式論理をも統合した思考だと説明されており、両者は排他的な関係ではありません。

日本語では水平思考と訳されます。エドワード・デボノの著作が1969年に邦訳されており、そこから広まった言葉として扱われることが多いようです。論理を縦に積み上げるのではなく、前提を置き換えて選択肢そのものを増やす発想の仕方を指します。発想の研究でいえば、発散的思考にあたる部分です。

名前のついた思考法や発想法は数多くあります。発想法だけを見ても、代表的なものを整理した文献では88の技法が紹介されています。ただし分類の軸は共通しており、案を広げる発散技法とまとめる収束技法に分けられます。3つを押さえれば、個別の手法はどこに属するかで理解できます。

多くの職場ではロジカルシンキングから入るのが無難です。説明と報告という日常業務に直結し、効果が見えやすいためです。ただし、議論が噛み合わない・決めたことが後で覆るといった症状が出ている組織では、クリティカルシンキングを先に置いたほうが効く場合があります。案が毎回2つしか出ないならラテラルから始めてもよいでしょう。

訓練で伸ばせる部分が大きいとされています。発想の研究では、発想力は個人の才能以上に方法論を適切に使えるかどうかにかかっており、訓練によって誰でも習得できるものだと整理されています。批判的思考についても、それを構成するスキルを教えることで身につくという前提で教育実践が積み重ねられてきました。

違います。批判的思考は「相手を批判する思考」とは限らず、むしろ自分の推論過程を意識的に吟味する反省的な思考として説明されます。会議で使う場合も、点検の対象は案と前提であって提案者ではありません。ここを明示しないと心理的な安全性が下がり、案が出てこなくなります。

繰り返すものではありますが、同じ時間帯に混ぜないほうがよいでしょう。案が出た直後に評価を返すと、以降は案が出なくなります。アジェンダに「前半は広げる、後半は絞る」と書き、切り替えの合図を出す運用が現実的です。

整った構造の文章は得やすくなりましたが、前提が誤っていても筋は通るという弱点は変わりません。むしろ文章が滑らかな分、疑いにくくなります。情報源の確認や、自社の文脈で妥当かを見極める判断は人の側に残ります。案出しをAIに任せ、選別と点検を人が担う分担が現実的です。

テストの点数だけに頼らないほうがよいでしょう。多肢選択形式の批判的思考力テストは読解や数学の能力テストとの相関が高く、測れる範囲が限られます。態度の変化は捉えられないともされています。会議で前提を問う発言が出るようになったかといった行動の変化を併せて見てください。

会議のアジェンダに今日のモード(広げる/絞る/点検する)を1行書くところから始めるとよいでしょう。次に「ほかにやり方はないか」「なぜそう言えるのか」「その前提は本当か」の3つの問いを共有します。研修より先に器を作っておくと、学んだ内容が入る場所ができます。

参考文献

  1. ※1 社会人基礎力 経済産業省(2026.08.03確認)
  2. ※2 育成を目指す資質・能力と個別最適な学び・協働的な学び 文部科学省(2026.08.03確認)
  3. ※3 批判的思考(『教育工学事典』所収項目を修正) 楠見孝 京都大学大学院教育学研究科 認知心理学講座(2026.08.03確認)
  4. ※4 認知心理学概論II「批判的思考」講義資料 楠見孝 京都大学オープンコースウェア(2026.08.03確認)
  5. ※5 発想法(計測と制御 第46巻 第4号 pp.292-297、2007年) 松井啓之 計測自動制御学会/J-STAGE(2026.08.03確認)
  6. ※6 水平思考の世界 : 電算機時代の創造的思考法(エドワード・デボノ著/白井実訳、講談社、1969年)書誌情報 国立国会図書館サーチ(2026.08.03確認)

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株式会社UNPLACED

「場所にとらわれず、居場所をつくる。」を理念に、企業向けのAI基礎研修・AIコンサルティング、ジュート由来の生分解性プラスチック「ソナリ」、ワークマネジメントサービス「OginAI」を提供しています。人手不足・DX・環境対応という経営課題に向き合う企業と伴走します。

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