アイデアが出ないという悩みの多くは、発想力の不足ではなく、考える範囲が最初から狭く決まっていることに原因があります。ラテラルシンキングは、その範囲を決めている前提のほうを動かす考え方です。ひらめきを待つのではなく、前提を書き出して置き換えるという手順に落とせます。定義から型、会議での使い方、訓練の仕方までを整理します。
結論:前提を置き換えて、選択肢そのものを増やす技術
アイデアが出ないという悩みの多くは、発想力そのものより考える範囲が最初から狭く決まっていることに原因があります。「価格は下げられない」「人は増やせない」「この商品を売るのが前提」——こうした条件を動かさないまま考えると、出てくる案はどうしても似通います。
ラテラルシンキング(水平思考)は、この条件のほうを動かす考え方です。論理を積み上げて一つの答えに近づく垂直思考に対して、前提を置き換えることで選択肢そのものを増やすことをねらいます。
そして、これはひらめきを待つ作業ではありません。論点を1文にする、前提を書き出す、書き出した前提を機械的に置き換える——という手順に落とせます。手順にすると、発想が得意でないと感じている人でも、案の数は増えます。
・垂直思考は与えられた前提のうえで正しさを積み、水平思考は前提を置き換えて選択肢を増やす
・対立するものではなく、広げてから絞るという順番の関係にある
・SCAMPER・アナロジー・制約の逆用・ランダム刺激といった型を使えば、手順として回せる
定義 — 「水平思考」という言葉が指しているもの
ラテラルシンキングは、日本語では水平思考と訳されます。辞典では、これまでの理論や枠にとらわれず、まったく異なった角度から新しいアイデアを生もうとする考え方として説明されています※1。あわせて、問題設定の支配的な枠にとらわれて考えること(=垂直思考)から離れ、さまざまに思考をめぐらせてよりよい案を見つけようとすること、という説明も並んでいます※1。定義の段階で「垂直思考との対比」が組み込まれているのが、この言葉の特徴です。
提唱の経緯については、辞典の記述ではイギリスのE・デボノが1967年ごろに示したものとされています※1。現場では「ラテラルシンキング」「水平思考」「横に広げて考える」といった言い方が混在しますが、指している中身は同じと考えて差し支えありません。
「水平」という語は、深さと広さの対比から来ています。垂直思考が1本の穴を深く掘る作業だとすれば、水平思考は掘る場所を変える作業です。掘る技術がどれほど高くても、場所が違えば水は出ません。逆に、場所を変えて回るだけでも穴は完成しません。実務では両方が要ります。
垂直思考との違い — 何が入れ替わるのか
2つの思考の違いは、能力の差ではなくルールの差です。何を動かしてよいことにするか、途中で正しさを判定するかどうか、この2点が入れ替わります。
| 垂直思考(ロジカル) | 水平思考(ラテラル) | |
|---|---|---|
| 目的 | 一つの答えに正しく近づく | 選べる案の数を増やす |
| 前提の扱い | 与えられた前提は動かさない | 前提そのものを置き換える |
| 進み方 | 順序どおりに積み上げる | 飛んでよい。途中が抜けても構わない |
| 途中の評価 | 一歩ごとに正しさを確かめる | その場では良し悪しを判定しない |
| 強い場面 | 原因の特定、意思決定の説明、資料化 | 手詰まり、同質化、条件が厳しい案件 |
| 弱い場面 | 前提そのものが間違っているとき | 実行計画づくり、社内の説得 |
| 出てくるもの | 一つの結論と、その根拠 | 複数の候補(多くは使えない案を含む) |
ここで押さえておきたいのは、どちらが優れているという話ではないということです。垂直思考が力を発揮するのは、前提が正しいときです。前提が古いまま精緻に積み上げると、精度の高い見当違いが出来上がります。逆に、前提を疑って案を広げただけでは何も決まりません。広げる担当と絞る担当を、同じ人が時間をずらして務める——これが実務の姿です。
なぜいま、発想を広げる力が求められるのか
経済産業省は「創造性人材の育成支援」の中で、答えが明確でない問題や変化し続ける状況に対処し、新規事業を創出するために創造性が重視されるようになったという趣旨の説明をしています※5。同省は創造的な思考と態度に関する調査研究の報告書やツールキットも公表しており、創造性を個人の資質ではなく育成の対象として扱っている点が特徴です。
また、同省が2006年に提唱した「社会人基礎力」は「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力と12の能力要素で構成されており、このうち「考え抜く力」の要素として課題発見力・計画力・創造力が挙げられています※4。考える力は、筋道を立てる力だけを指してはいない、という整理です。
現場の実感に引き寄せると、必要とされる理由は次の3つに集約されます。
- 正解が配られない仕事が増えた。前例のある業務は手順化と自動化が進み、残るのは前例のない判断です。
- 改善の余地が細くなった。同じ土俵での効率化を続けると、いずれ削る先がなくなります。土俵を変える発想が要ります。
- 調べれば同じ答えに行き着く。誰でも同じ情報に届く以上、差がつくのは調べ方ではなく問いの立て方のほうです。
前提を疑う3つの視点
「前提を疑え」と言われても、何を疑えばよいのかが分からないまま終わりがちです。実務では、疑う先を目的・対象・制約の3つに固定してしまうのが早道です。
| 視点 | ぶつける問い | 出てくる転換の例 |
|---|---|---|
| 目的を疑う | そもそも何のためにやっているのか。上位の目的は何か | 「資料を早く作る」→「その資料は要るのか」 |
| 対象を疑う | 誰のためのものか。別の相手に向けたらどうなるか | 「既存顧客向けの改良」→「使っていない層に向けた別用途」 |
| 制約を疑う | 本当に動かせないのか。誰が決めた条件か | 「対面が必須」→「必須なのは対面か、信頼の担保か」 |
とくに効くのが3つ目の「誰が決めた条件か」です。現場で動かせないと信じられている条件のうち、法令や契約で決まっているものは実はごく一部で、多くは過去の判断がそのまま残っているだけという場合があります。決めた人も理由も分からない条件が見つかったら、そこが置き換えどころです。
やり方は単純で、案を出す前に「この案件で動かせないと思っている条件」を箇条書きにするだけです。5つも書けば十分で、そのうち1つを外して考え直します。順に全部試す必要はありません。
ひらめき待ちにしない — 5つの手順
発想を個人の資質にしないためには、順番を決めてしまうことです。以下は会議でも一人でも回せる形です。
1. 論点を1文にする。「売上を上げる」は論点ではなく願望です。「既存顧客の2回目の購入をどう増やすか」まで絞ると、外すべき前提が見えてきます。ここが曖昧なまま発散すると、雑談になります。
2. 前提を書き出す。先ほどの3視点で、動かせないと思っている条件を5つほど書きます。書き出さない限り、前提は疑えません。頭の中にあるうちは前提だと認識されないためです。
3. 前提を置き換える。1つ選んで逆にする、極端にする、無くしてみる。「訪問は必要」を「訪問しない」に置き換えると、何が代わりになるかを考えざるを得なくなります。
4. 案を出し切る。この段階では実現性を問いません。使えない案が混ざるのは正常です。むしろ、使えない案が1つも出ていないなら、前提が外れていないと考えたほうが確実です。
5. あとで絞る。評価は別の時間に行います。同じ会議で続けるとしても、休憩を挟んで頭を切り替えます。
型① SCAMPER — 既存のものに7つの問いを当てる
ゼロから考えるより、すでにあるものを変形するほうが案は出ます。SCAMPERは、その変形の方向を7つの問いに整理した型として広く使われています。
| 問い | 内容 | 業務改善に当てた例 |
|---|---|---|
| 置き換える | 材料・担当・場所・手段を別のものにできないか | 紙の申請書を、既存の勤怠システムの項目で代替する |
| 組み合わせる | 別の業務・機能・部署とまとめられないか | 2種類の定例会議を1本にまとめる |
| 応用する | 他の業界・他の場面のやり方を借りられないか | 飲食店の予約導線を、来店型サービスの受付に応用する |
| 変える | 大きさ・頻度・順序・強さを変えられないか | 月1回の報告を、週1回の3行報告に変える |
| 別の使い道 | 本来と違う目的に使えないか | 採用向けの説明資料を、新入社員の教育に転用する |
| 取り除く | 無くしても回るものはないか | 承認段階を1つ減らして、事後確認に切り替える |
| 逆にする | 順序・立場・役割を入れ替えられないか | 教わる側が手順書を書き、教える側が確認する |
使い方は機械的で構いません。対象を1つ決めて、7つの問いを上から順に当てるだけです。全部に答えを埋める必要はなく、2つ3つ引っかかれば十分です。
注意点は、表を埋めること自体が目的になりやすいことです。埋まった時点で満足せず、出た案を論点に照らして選び直してください。型は案を出す道具であって、決める道具ではありません。
型② アナロジー — 構造を他分野から借りる
アナロジー(類推)は、別の領域で成立している仕組みを、構造だけ抜き出して自分の問題に当てはめるやり方です。他分野からの借用は、社内の議論では出てこない案を連れてきます。
手順は3段階です。
- 抽象化する。「新人が独り立ちするまで時間がかかる」を、「経験が個人に溜まり、他人に移せない」という構造まで引き上げます。
- 同じ構造を持つ別の場を探す。飲食店の調理、病院の引き継ぎ、スポーツの練習、ゲームの操作説明など、業界を離れて探します。
- 具体に戻す。借りてきた仕組みを、自社の条件に合わせて言い直します。ここを飛ばすと、「あの業界ではうまくいっている」で終わります。
コツは、見た目が似ているものではなく、構造が似ているものを探すことです。同業他社の事例は見た目が似ているぶん抽象化を省きやすく、結果として真似で終わりがちです。むしろまったく関係のない業種のほうが、構造を意識せざるを得ないぶん有効な場合があります。
なお、他社の仕組みをそのまま持ち込む場合は、権利や契約の面で確認が必要になることがあります。仕組みの発想を借りることと、表現や仕様をそのまま使うことは別の話です。
型③ 制約の逆用 — あえて縛る、あえて外す
「自由に考えてください」と言われると、かえって案が出ないという経験は多くの人にあると思います。選択肢が広すぎると、人はすでに知っている案に戻ってしまうためです。そこで使うのが制約を意図的に動かすという手です。
方向は2つあります。
| 動かし方 | かけ方の例 | ねらい |
|---|---|---|
| あえて縛る | 予算ゼロなら/明日までなら/担当が1人減ったら/既存の道具だけなら | 既存案が使えなくなり、別の道を探さざるを得なくなる |
| あえて外す | 予算が10倍なら/人手が無限なら/その業務が無くなったら | 本当にやりたいことが表に出て、目的が言語化される |
実務では、1回につき動かす制約は1つだけにしてください。複数を同時に動かすと、話が空想に流れて戻ってこられなくなります。「予算ゼロ」で15分だけ考える、といった区切り方が現実的です。
この型のよいところは、出た案をそのまま採用しなくても効果がある点です。予算ゼロで考えた案は多くの場合そのままでは使えませんが、「実は費用の大半は別の理由で発生していた」といった気づきが副産物として出てきます。前提を動かした痕跡は、元に戻したあとにも残ります。
型④ ランダム刺激と逆設定 — 手が止まったときに
会議が20分ほど進んで、同じ案の言い換えばかりになる時間帯があります。ここで粘っても新しい案は出ません。頭が同じ道筋をなぞっているためです。刺激を外から入れます。
ランダム刺激。論点と無関係な言葉を1つ選び、無理やり結びつけます。手元の本の1語でも、目に入った備品でも構いません。「傘」と「問い合わせ対応」を結ぶなら、「降りそうなときに差し出す=問い合わせが来る前に案内を出す」といった具合に、こじつけで前に進めます。関係がないからこそ、いつもと違う経路を通れます。
逆設定。「どうすれば最悪になるか」を先に出します。「二度と使いたくなくなるサービスにするには」を全員で考えると、遠慮なく意見が出ます。出そろったら反転させ、裏返しの改善案にします。批判的な意見が出やすい場でも使えるのがこの型の利点で、後ろ向きな空気をそのまま素材にできます。
どちらも時間を区切って使うのが前提です。5分から10分で切り上げ、通常の議論に戻します。長く続けると場が緩み、議事が進まなくなります。
型の使い分け — 状況から選ぶ
型を4つ並べましたが、毎回すべてを使う必要はありません。状況から1つ選べば十分です。
| いまの状況 | 向く型 | 出てきやすいもの |
|---|---|---|
| 既存の商品・業務を良くしたい | SCAMPER | 変形案。細かいが実行しやすい |
| 同業と同じ土俵で差がつかない | アナロジー | 他業界由来の、社内から出てこない案 |
| 予算・人手・時間が足りない | 制約の逆用(あえて縛る) | やめる判断、置き換えの案 |
| 目的が曖昧なまま議論している | 制約の逆用(あえて外す) | 本来の目的の言語化 |
| 案が出尽くして止まった | ランダム刺激 | 方向の違う案。当たり外れは大きい |
| 不満や反対意見が先に出る | 逆設定(最悪の案から) | 本音に基づく改善点 |
迷ったらSCAMPERから始めるのが無難です。既存のものを土台にするため、案が現実から離れすぎず、初めての人でも手が動きます。慣れてきたらアナロジーに広げると、案の幅が変わります。
職場での使い所① 企画・商品開発
企画の場面でありがちなのは、会議が始まった時点で答えの範囲が決まっていることです。「この商品の販促案を考える」という設定で集まると、販促以外の案は出せません。
中小企業基盤整備機構のJ-Net21では、企画会議の技法として、参加者が自由にアイデアを出し合える雰囲気づくり、将来のあるべき姿から逆算するバックキャスティング、議論を促して発言を引き出すファシリテーターの設置などが挙げられています※6。いずれも、発言の量と方向を場の設計でつくるという考え方です。
ラテラルシンキングを企画に持ち込むときの具体策は3つです。
- 論点を1段上げて設定する。「この商品の販促案」ではなく「この顧客のこの困りごとをどう減らすか」から始めます。商品を売らない解決策も一度は机に載ります。
- 案を出す会と、決める会を分ける。同じ会議で両方をやると、途中で評価が始まり、案の数が伸びません。
- 逆算の設定を先に置く。3年後にどうなっていたいかを先に決めてから今日の案を出すと、目先の制約に引きずられにくくなります。
なお、企画会議で出た案はその場で議事録に原文のまま残すことをおすすめします。整理して書くと、扱いにくい案から先に消えます。扱いにくい案は、たいてい前提が外れている案です。
職場での使い所② 業務改善とトラブル対応
業務改善。改善というと手順を速くする方向に向かいがちですが、水平思考が効くのはその作業をやめられないかという方向です。次の順で問うと、案の質が変わります。
- やめられないか。誰も見ていない報告書、目的の説明ができない確認作業がないか。
- まとめられないか。似た作業が部署ごとに重複していないか。
- 順番を変えられないか。後工程で気づく不備を、前工程で防げないか。
- 担い手を変えられないか。依頼元に書いてもらう、道具に任せる、外に出す。
速くする案は最後で構いません。やめられる作業を速くしても、成果はゼロのままだからです。
トラブル対応。ここでは2つの思考を明確に分けます。原因の特定は垂直思考の仕事で、時系列と事実を積んで詰めていきます。一方、いま被害を止める打ち手は水平思考の領域です。原因が分からなくても、影響範囲を切り離す、代替の手段に切り替える、対象者に先に知らせる、といった手は打てます。
混乱しやすいのは、原因が分かるまで対処を待ってしまうことです。「原因は後で必ず特定する。いまは止血を考える」と役割を分けて宣言すると、場が動きます。時間を区切って、止血案を先に5分で出すのが実務的です。
ロジカルとの往復 — 発散と収束を混ぜない
ラテラルシンキング単独では、何も決まりません。出した案を選び、実行できる形にするのはロジカルシンキングの役目です。2つは往復させて使います。
| 段階 | 使う思考 | この段階でやらないこと |
|---|---|---|
| 論点を決める | ロジカル/クリティカル | 案を出すこと |
| 前提を洗い出す | クリティカル | 良し悪しの判定 |
| 案を広げる | ラテラル | 実現性の検討 |
| 案を絞る | ロジカル | 新しい案の追加 |
| 実行計画にする | ロジカル | 前提の見直し |
実務でいちばん多い事故は、案を広げる段階で実現性の検討が混ざることです。1つ案が出るたびに「予算は」「誰がやるのか」と確認が入ると、5分で案は出なくなります。順番を守るだけで、同じメンバーでも結果は変わります。
絞る段階では、目的に合うか/実行できるか/効果の大きさ/リスクの4点で見ます。ここで役に立つのが、根拠を構造で点検する型です。詳しくはロジカルシンキングとは — MECE・ピラミッド構造・演繹と帰納の使い方で扱っています。3つの思考法の関係そのものはロジカル・クリティカル・ラテラル — 3つの思考法の違いと使い分けに整理しました。
会議での運用 — 否定しない場をどう作るか
型を知っていても、場が否定的だと案は出ません。集団で案を出す方法として広く使われているブレインストーミングでは、批判をしない・自由に発想する・質より量を優先する・出た案を結合して発展させるという原則が挙げられています※3。
教職員支援機構の資料でも、自由な発想で短く発言する、その場で良い悪いを言わない、実現性を問わず数を出す、出たアイデアを手がかりに結合・変形・改善する、という進め方が示されています。あわせて、仲間のアイデアから連想が起こり、一人で考えるより発想が豊かになるという効果が説明されています※2。
原則は単純ですが、そのまま会議に持ち込んでも守られません。次の工夫を足すと現実的になります。
- 先に個人で書く時間を取る。いきなり口頭で始めると、声の大きい人の案に引っ張られます。3分で各自が書いてから共有します。
- 役職者は最後に話す。最初に上位者が方向を示すと、以降はその範囲の案しか出ません。
- 判定する人をその場に置かない。決裁者が同席する場合は「今日は決めない会です」と明言します。
- 時間を短く区切る。案出しは15分から20分で十分です。長いほど良い案が出るわけではありません。
- 否定は禁止ではなく、後回し。「使えない理由は絞る段階でまとめて出す」と伝えると、抑え込んでいる感覚が薄れます。
「否定しない」は「どんな案も採用する」という意味ではありません。判定の時間を後ろにずらすだけです。ここを説明しておかないと、現実的な人ほど参加しにくくなります。
訓練メニュー — 個人でできること、組織でやること
発想は資質ではなく、負荷のかけ方で変わります。無理のない範囲で続けられるものを挙げます。
個人でできること。
- 1日1回、別のやり方を1つ書く。その日にやった作業を1つ選び、「これを別の方法でやるなら」を1行だけ書きます。実行しなくて構いません。
- 他業種の記事を週に1本読む。自社と無関係な業界を選びます。アナロジーの材料はここで貯まります。
- 制約を1つ変えて考え直す。予算・期限・人数のどれか1つを極端に動かして、5分だけ考えます。
- 案を捨てずに残す。使わなかった案をメモに残しておくと、条件が変わったときに使えることがあります。
「例題」の使い方。ラテラルシンキングの練習問題として、答えが意外な形になるクイズが紹介されることがあります。前提を疑う感覚をつかむ入口としては有効です。ただし例題には正解が1つ用意されているのに対し、実務では正解が用意されていません。例題が解けることと、仕事で案が出せることは別の能力だと考えたほうが安全です。練習に使うなら、答えを当てることより「自分がどの前提に縛られていたか」を言葉にするほうに時間を使ってください。
組織でやること。個人の努力より、場の設計のほうが効きます。案出しの会と決める会を分ける、議事録に採用しなかった案も残す、案を出した人ではなく案そのものを検討する——この3つを運用に組み込むだけで、出てくる案の幅は変わります。研修で扱う場合も、一般論の演習より実際に抱えている案件を題材にするほうが定着します。
よくある誤解と、注意したいこと
最後に、実際につまずきやすい点を挙げます。
- 誤解1:発想力のある人だけのもの。前提を書き出して置き換えるという手順は、誰でも同じように実行できます。差がつくのは、手順を踏んでいるかどうかのほうです。
- 誤解2:論理を無視してよい。途中の飛躍を許すのは案を出す段階だけです。実行する段階では、根拠と手順が要ります。
- 誤解3:奇抜であるほど良い。目的は目新しさではなく、選べる案を増やすことです。地味でも前提が外れていれば十分に価値があります。
- 誤解4:数さえ出せばよい。量は前提を外すための手段です。同じ前提のまま100個出しても、選択肢は1種類のままです。
- 誤解5:会議で使う技法である。一人でも使えます。むしろ、論点と前提を書き出す作業は一人のほうがはかどります。
あわせて、前提を外してはいけない領域があることも押さえておいてください。安全、品質、法令、個人情報の取り扱いといった領域の条件は、動かしてよい前提ではありません。案出しの前に「ここは動かさない」と明示しておくと、後の手戻りを防げます。
また、前提を疑う姿勢は、自分の結論にも向ける必要があります。広げた案を自分の好みで選んでしまえば、結局もとの前提に戻ります。この点はクリティカルシンキングとは — 前提を疑い、結論の質を上げる技術で扱っています。企画を社外に伝える段階で必要になる整理はプレスリリースの書き方と配信設計が参考になります。
よくある質問
日本語では水平思考と訳され、これまでの理論や枠にとらわれず、まったく異なった角度から新しいアイデアを生もうとする考え方として辞典で説明されています。論理を順に積み上げる垂直思考に対し、前提そのものを置き換えて選べる案の数を増やすことをねらう点が特徴です。
同じものと考えて差し支えありません。lateral thinking の訳語が水平思考で、日本語の文献では両方の呼び方が使われています。「横に広げて考える」といった言い方をされることもありますが、指している中身は変わりません。
動かしてよいものが違います。垂直思考は与えられた前提を保ったまま、順序どおりに積み上げて一つの答えに近づきます。水平思考は前提そのものを置き換え、途中で良し悪しを判定せずに案の数を増やします。優劣ではなく、広げてから絞るという順番の関係にあります。
手順にできます。論点を1文にする、動かせないと思っている条件を書き出す、そのうち1つを外して考え直す、案を出し切る、評価は後にする——この5段階です。書き出さないと前提は認識できないため、まず紙に出すところから始めてください。
既存の商品や業務を1つ決めて、置き換える・組み合わせる・応用する・変える・別の使い道・取り除く・逆にする、の7つを上から順に当てます。すべてを埋める必要はなく、2つ3つ引っかかれば十分です。表を埋めること自体が目的にならないよう注意してください。
前提に縛られている感覚をつかむ入口としては有効です。ただし例題には正解が1つ用意されている一方、実務では正解が用意されていません。答えを当てることより、自分がどの前提に縛られていたかを言葉にするほうに時間を使うと、仕事に移しやすくなります。
同じ案の言い換えが続いているなら、粘らずに刺激を入れます。論点と無関係な言葉を1つ選んで無理に結びつける、あるいは「どうすれば最悪になるか」を先に出して反転させる方法があります。いずれも5分から10分で区切り、通常の議論に戻してください。
順番に決まりはありませんが、業務で困っている内容から選ぶのが実際的です。説明が伝わらない、結論の根拠が弱いという悩みならロジカルから。案が似たものばかりになる、手詰まりという悩みならラテラルからです。最終的には両方を往復させて使うことになります。
個人の訓練より場の設計が先です。案を出す会と決める会を分ける、採用しなかった案も議事録に残す、案を出した人ではなく案そのものを検討する。この3点を会議の運用に入れるところから始めると、特別な研修がなくても出てくる案の幅が変わります。
参考文献
- ※1 水平思考(デジタル大辞泉・精選版 日本国語大辞典 ほか) コトバンク(2026.08.03確認)
- ※2 創造的な思考力を促すブレインストーミング(NITSニュース第28号) 独立行政法人教職員支援機構(2026.08.03確認)
- ※3 能力開発データベース ブレーン・ストーミング 高齢・障害・求職者雇用支援機構 職業能力開発総合大学校 基盤整備センター(2026.08.03確認)
- ※4 社会人基礎力 経済産業省(2026.08.03確認)
- ※5 創造性人材の育成支援 経済産業省(2026.08.03確認)
- ※6 企画会議の技法(J-Net21) 独立行政法人中小企業基盤整備機構(2026.08.03確認)
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