Column

電子帳簿保存法とインボイス制度 — バックオフィスのデジタル化

最終更新日 2026.08.04

監修:株式会社UNPLACED

この2つの制度は、よく並べて語られます。ただ、義務の重さはまったく違います。片方は「対応が必要」とされ、もう片方は希望者だけの制度です。まずそこを分けないと、やらなくてよいことに時間を使ってしまいます。国税庁が公表している資料で確認できた範囲に絞り、実務の順序で整理します。

結論:義務は「電子取引データ保存」だけです

先に答えを書きます。国税庁のパンフレットでは、電子帳簿等保存制度は3つに区分され、それぞれに【希望者のみ】【法人・個人事業者は対応が必要】かが明示されています※1

制度位置づけざっくり言うと
電子帳簿等保存希望者のみ会計ソフトで作った帳簿をデータのまま保存してよい
スキャナ保存希望者のみ紙の請求書などを読み取って保存してよい
電子取引データ保存法人・個人事業者は対応が必要データで受け取った請求書等はデータのまま保存する

つまり、紙をスキャンする話も、帳簿をデータ化する話も、やらなくて構いません。必要なのは、メール等で受け取った請求書・領収書を、紙に出して終わりにせずデータでも残すことだけです。

インボイス制度は性質が違い、保存の方法ではなく消費税の仕入税額控除を受けるための要件です。登録するかは事業者の判断ですが、登録すると交付と写しの保存の義務が生じます※4

この記事の前提
本記事は、国税庁が公表している資料を実際に開いて確認できた範囲でのみ記述しています(確認日は各参考文献に記載)。税制は改正されます。実際の判断にあたっては参考文献の原文を確認し、個別の事情は税理士または所轄の税務署にご相談ください。本記事は税務上の助言ではありません。

2つの制度の関係 — 別の法律、別の目的

混同されやすいので、先に線を引いておきます。この2つは根拠となる法律も目的も違います

電子帳簿保存法インボイス制度
関係する税所得税・法人税が中心消費税
目的帳簿書類をデータで保存できるようにする仕入税額控除の要件を定める
守らないと保存義務を果たしていない状態になる仕入税額控除が受けられない

実務で効くのは、同じ1枚の請求書が両方の制度に同時にかかる点です。取引先からPDFの請求書が届けば、電子帳簿保存法では「電子取引データ」としてデータのまま保存する対象になり、同時に、仕入税額控除のためインボイスの記載事項を満たしているかを見る必要があります。

やっかいなのは、2つの制度で「紙に出してもよいか」の答えが違うことです※2。所得税・法人税に係る保存義務者については、令和3年度の税制改正により、令和4年1月1日以後に行う電子取引の電磁的記録を書面等に出力して保存する措置が廃止されました。一方、電子インボイスなど消費税法令において保存することとされている電子データは、同日以後も引き続き書面に出力して保存することも認められているとされています。

つまり消費税の側だけを見ていると「紙に出せば足りる」と誤解します。データを消さずに残す、が出発点になります。

電子帳簿保存法の3つの区分

3区分の中身を、もう少し具体的に見ていきます。

1. 電子帳簿等保存(希望者のみ)

会計ソフトなどで最初の記録段階から一貫してパソコンで作成した帳簿・書類を、印刷せずデータのまま保存してよいという制度です。「最初から一貫して」がポイントで、紙で作ったものを後からデータにする話ではありません。

2. スキャナ保存(希望者のみ)

取引先から紙で受け取った書類や、自分が手書きなどで作成して相手に紙で渡した書類の写しを、スキャナやスマートフォンで読み取って保存する制度です。決算関係書類は対象外です※3。読み取ったあとの紙を廃棄できるのが最大の利点です。

3. 電子取引データ保存(対応が必要)

ここだけが義務です。パンフレットの表現では、「取引に関して、書面でやり取りしていた場合に保存が必要な書類(注文書・契約書・送り状・領収書・見積書・請求書など)に相当する電子取引データを受領又は交付した場合、その電子取引データの電子保存が義務付けられています」とされています※1

1と2をやらなくても3はやる必要があり、逆に3さえ押さえれば法令上の義務は満たせます。1と2は業務効率のための選択肢です。

電子取引データ保存 — どこまでが対象になるか

「うちはEDIなんてやっていない」と思われがちですが、対象は広いです。国税庁のチェックシートでは、電子取引の例として次のようなものが挙げられています。

  • 取引先からメール・EDI・クラウド等で受領した見積書・納品書・請求書
  • ECサイトで購入した商品の請求書や領収書
  • インターネットのみで確認できるクレジットカード、ネットバンキング、水道光熱費などの明細

この時点で該当しない事業者はほとんどいません。通販で備品を買っただけでも当てはまります。押さえておきたい点が3つあります。

受け取ったものだけでなく、交付したものも対象です。自社がPDFの請求書をメールで送っているなら、送った側のデータも保存の対象になります。

従業員の立替えも入ります。従業員が経費を立て替え、領収書をデータで受け取った場合も対象になり得ます。経費精算を紙前提のまま放置していると、ここが抜けます。

同じ書類を2つの経路で受け取ったときは、どちらか一方で足ります。クラウドとメールの両方で同じ請求書が届いた場合、それが同一のものであれば、いずれか一つを保存しておけばよいとされています※2

真実性の要件 — 改ざん防止の4つの選択肢

電子取引データの保存要件は、真実性の確保可視性の確保に分かれます※1。まず真実性です。次のいずれかの措置を行うとされており、全部やる必要はありません。

選択肢内容実務での重さ
1タイムスタンプが付与されたデータを受領相手方の対応に依存する
2受領したデータに速やかにタイムスタンプを付与付与できる仕組みが要る
3訂正削除の履歴が残る(又は訂正削除できない)システム等を利用して授受・保存対応クラウドの導入で満たせる
4改ざん防止のための事務処理規程を策定、運用、備付けシステム導入なしで満たせる

中小企業でまず検討されるのは4番目の事務処理規程です。パンフレットにも「専用のシステムを導入しない方法もあります」と明記され、国税庁のサイトには規程のサンプルも掲載されています※1

ただし作って置いておくだけでは足りません。要件は「策定、運用、備付け」であり、運用が含まれます。訂正・削除を原則禁止とし、やむを得ず行う場合は申請と承認を経て記録を残す——この流れが実際に回っている必要があります。

なお3番目を選ぶ場合は、それで真実性を満たせるためあわせて事務処理規程を作る必要はありません。二重に整備して運用負担を増やさないでください。

可視性の要件 — 見られる状態と、探せる状態

可視性の確保は、次の①と②をすべて満たす必要があります※1。真実性が「いずれか」だったのに対し、こちらは「すべて」です。

① ディスプレイやプリンタ等を備え付けること。性能や設置台数は要件とされていません。国税庁のチェックシートには、パソコンやプリンタ等を保有していなくても近隣の有料プリンタ等により速やかに出力できればこの要件を満たすものと取り扱われる、との説明もあります。ここでつまずくことはまずありません。

② 「日付・金額・取引先」の3つの要素で検索できること。実務上の山はこちらです。さらに②については、次のいずれかの措置が必要とされています。

  • 日付又は金額での範囲指定検索・2つの要素を組み合わせた検索ができること
  • 税務調査等の際に電子取引データのダウンロードの求めに応じることができること

後者を選べば、範囲指定検索や組合せ検索の仕組みを自前で用意しなくて済みます。多くの中小企業にとっては、こちらが現実的な入口です。

「日付・金額・取引先」で検索できる状態は、専用システムがなくても作れます。国税庁のパンフレットは簡易な方法を2つ示しています※1

  • 索引簿方式… 表計算ソフト等で連番・日付・金額・取引先を並べた一覧表を作り、そこから検索します。一覧表の通し番号とファイル名を対応させておきます※2
  • ファイル名方式… 日付・金額・取引先の順で規則性をもったファイル名を付け、特定のフォルダに集約します。

検索要件が軽くなる条件、不要になる条件

検索の要件は、事業規模や運用によって段階的に軽くなります。ここを知らずに高機能なシステムを検討し始めると、必要のない投資になります。

状況検索について求められること
原則日付・金額・取引先での検索+範囲指定検索+2項目以上の組合せ検索
ダウンロードの求めに応じられる日付・金額・取引先での検索ができればよい
基準期間の売上高が5,000万円以下 等ダウンロードの求めに応じられるようにしていれば、検索要件を満たす必要がない

3行目の条件は、パンフレットでは「基準期間(2年(期)前)の売上高が5,000万円以下の方」等と書かれています※1。判定方法は一問一答にあります※2

  • 判定の期間… 個人事業者は電子取引が行われた日の属する年の前々年、法人は前々事業年度の売上高で判断するとされています。
  • 消費税の課税売上高とは別物… 規則が「売上高」と規定していることから営業外収入や雑収入を含まず、消費税法上の「課税売上高」とは内容を異にすると明記されています。
  • 新規開業・新設法人… 判定期間に係る基準期間がない新規開業者や新設法人の初年(度)・翌年(度)などは、検索機能の確保が不要になるとされています。

もうひとつ、出力書面を整理しておく方法でも検索要件が不要になる場合があります。「電子取引データを出力した書面を、取引年月日及び取引先ごとに整理された状態で提示・提出することができるようにしている」場合です。ただしデータ自体の保存は必要です。

猶予措置の考え方 — 「相当の理由」と2つの条件

要件に対応しきれない場合の受け皿として、猶予措置が置かれています。次の⑴と⑵の両方を満たす場合には、電子取引データを保存しておくだけでよいとされています※1

猶予措置の2つの条件
⑴ 原則的な保存ルールに従って電子取引データを保存することができなかったことについて、所轄税務署長が相当の理由があると認める場合
⑵ 税務調査の際に、電子取引データのダウンロードの求めプリントアウトした書面の提示・提出の求めに、それぞれ応じることができるようにしている場合

「相当の理由」については一問一答に説明があります。要件に従って保存するためのシステム等や社内のワークフローの整備が間に合わないなど、要件どおり保存を行うための環境が整っていない事情がある場合が該当するとされています。パンフレットでは「人手不足」「システム整備の資金不足」なども認められると説明され、事前届出は不要です※1。逆に、整備が整っているにもかかわらず資金繰りや人手不足等の理由がなく要件どおり保存していない場合は、適用を受けられないとされています※2

そして誤解の多いところです。猶予措置は「紙に出して済ませてよい」という制度ではありません。一問一答は、電子データの保存に代えて出力書面のみを保存する対応は認められず、電子データ自体を保存するとともに、データと出力書面の両方について提示または提出ができる必要があると明記しています※2

実務としての結論は単純です。まず、データを消さずに残す。要件を完璧に整えるのはそのあとで構いません。

スキャナ保存の要件 — 紙を手放すための条件

ここからは任意の制度です。始めるための特別な手続きは原則として不要ですが、開始日より前に作成・受領した重要書類(過去分重要書類)をスキャナ保存する場合は、あらかじめ税務署に届出書を提出する必要があります※3。要件は書類の性格によって2段階に分かれます。

重要書類一般書類
性格資金や物の流れに直結・連動する書類直結・連動しない書類
契約書、納品書、請求書、領収書 など見積書、注文書、検収書 など
入力期間早期入力方式または業務処理サイクル方式制限なく入力することもできる
読み取りカラー(24ビットカラー)白黒階調で読み取ることもできる
帳簿との相互関連性必要不要

入力期間の2つの方式は次のとおりです※3

  • 早期入力方式… 書類を作成または受領してから、速やか(おおむね7営業日以内)にスキャナ保存します。
  • 業務処理サイクル方式… 業務処理サイクルの期間(最長2か月以内)を経過した後、速やか(おおむね7営業日以内)にスキャナ保存します。各事務の処理規程を定めている場合のみ採用できます。

共通して求められる主な要件です。解像度は200dpi相当以上、カラーは赤・緑・青の階調がそれぞれ256階調以上(24ビットカラー)。タイムスタンプの付与が必要ですが、入力期間内にスキャナ保存したことを確認できる場合には、この付与要件に代えることができるとされています。ほかに、訂正・削除の事実や内容を確認できるシステム等の使用、システム概要書等の備付け、14インチ以上のカラーディスプレイ及びカラープリンタ並びに操作説明書の備付けが求められます。検索機能は電子取引データ保存と同様です※3

電子帳簿保存法を表すイメージ。白い机の右手前で人物が印刷物を手に持ち、奥にノートパソコンと本の山、左端にドライフラワーの花瓶

インボイス制度の概要と、適格請求書の記載事項

ここから消費税の話です。国税庁の資料では、インボイス制度は令和5年10月1日に開始された、複数税率の下で適正な課税を確保するための仕入税額控除の方式と説明されています。一定の事項を記載した帳簿およびインボイスなどの請求書等の保存が仕入税額控除の要件となり、交付できるのは税務署長の登録を受けた「インボイス発行事業者」に限られます※4

インボイスの記載事項は次の6つです※4

#記載事項見落としやすい点
1インボイス発行事業者の氏名又は名称及び登録番号登録番号の記載漏れが最も多い
2取引年月日
3取引内容(軽減税率の対象品目である旨)軽減税率対象があれば明示が要る
4税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率区分と適用税率の両方が要る
5税率ごとに区分した消費税額等1インボイスにつき税率ごと端数処理は1回
6書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称簡易インボイスでは不要

実務で助かるのが、様式は法令や通達等で定められていない点です。必要な事項が記載されていれば、名称を問わず手書きであってもインボイスに該当します。さらに一の書類のみで全ての記載事項を満たす必要はありません。請求書と納品書など相互の関連が明確な複数の書類全体で満たしていれば足ります。不特定多数の者に販売等を行う小売業、飲食店業、タクシー業等では、簡易インボイスを交付できます※4

交付する側には原則としてインボイスの交付返還インボイスの交付(対価の返還等の金額が1万円未満の場合を除く)、修正したインボイスの交付写しの保存が求められます※4

受け取る側の実務 — 帳簿とインボイスを両方そろえる

買手の負担は「請求書を集める」ことだけではありません。帳簿とインボイス等の請求書等、両方の保存が仕入税額控除の要件です。帳簿の記載事項は、課税仕入れの相手方の氏名又は名称/取引年月日/取引内容(軽減税率対象の場合、その旨)/対価の額の4つとされています※4

受け取ったインボイスに不備があった場合、買手が勝手に追記して直すことはできません。制度より前の区分記載請求書では自ら追記することが可能とされていましたが、インボイスでは誤りがあった場合に売手が修正したインボイスを交付することとされています※4受け取った側でできるのは「気づいて、売手に依頼すること」までです。

段階やること詰まりやすい点
受領データはデータのまま保存する紙に出して原本のデータを消す
確認登録番号・税率ごとの区分・消費税額等の有無を見る支払処理まで誰も見ていない
依頼不備は売手に修正インボイスを依頼する買手側で追記して済ませる
記帳帳簿に必要事項を記載する特例適用時の追加記載を忘れる

確認の工程を支払処理の前に置くのが要点です。支払ってしまってから不備に気づくと、相手に修正を依頼しづらくなります。

少額特例と、帳簿の保存だけでよい取引

すべての取引でインボイスをそろえる必要はありません。インボイスの保存が不要で、一定の事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除ができる取引が定められています※4。中小企業に効くのが少額特例です。税込1万円未満の課税仕入れについて、帳簿の保存のみで仕入税額控除ができます。取引先がインボイス発行事業者かどうかは関係なく、免税事業者であっても同様とされています※6

少額特例の適用条件(確認日時点)
・対象者… 基準期間における課税売上高が1億円以下、または特定期間における課税売上高が5千万円以下の事業者
・対象期間… 令和5年10月1日から令和11年9月30日までに行う課税仕入れ
・判定単位… 一回の取引の金額(税込み)が1万円未満かどうか。一商品ごとではありません※6

判定単位は誤解が多いところです。国税庁は5,000円の商品と7,000円の商品を同時に購入した場合(合計12,000円)は対象とならないと具体例を示しています。なお少額特例はインボイスの保存を不要とするものであり、発行事業者の交付義務が免除されるわけではありません※6

少額特例のほかにも、帳簿のみの保存で仕入税額控除ができる取引があります※4

  • 3万円未満の公共交通機関による旅客の運送/3万円未満の自動販売機による購入
  • 郵便切手を対価とする郵便サービス
  • インボイス発行事業者が発行した入場券等で、使用時に回収されるもの
  • 古物商や質屋等が仕入れる古物、質物等/従業員等に支給する出張旅費等

ただし条件があります。これらの特例の対象となる仕入れについては、帳簿に「課税仕入れの相手方の住所又は所在地」と「特例の対象となる旨」の記載が必要とされています※4。帳簿側の記載を忘れないでください。

免税事業者等からの仕入れ — 経過措置の現在地

インボイス発行事業者ではない相手から仕入れた場合、原則として仕入税額控除ができません。ただし経過措置があり、これは令和8年度税制改正で見直されています。古い解説記事の数字をそのまま使うと間違えるところです。適用期限を2年間延長した上で控除可能割合が見直され、「7・5・3割控除」と呼ばれています※5

期間控除できる割合
令和5年10月1日〜令和8年9月30日80%控除可能
令和8年10月1日〜令和10年9月30日70%控除可能
令和10年10月1日〜令和12年9月30日50%控除可能
令和12年10月1日〜令和13年9月30日30%控除可能
令和13年10月1日〜控除不可

あわせて控除限度額も見直されました。一のインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れの額の合計額が、その年または事業年度で1億円(改正前:10億円)を超える場合には、その超えた部分について経過措置の適用を認めないこととされ、令和8年10月1日以後に開始する課税期間から適用されるとされています。また経過措置を使うには、免税事業者等から受領する区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等の保存と、経過措置の適用を受ける旨を記載した帳簿の保存が必要とされています※5

売手側の負担軽減措置も動いています。2割特例は令和8年9月30日までの日の属する課税期間で終了し、これに代わる3割特例が創設されました。個人事業者であるインボイス発行事業者の令和9年分および令和10年分の消費税申告について、納付税額を課税標準額に対する消費税額の3割とすることができるとされています※5

これらの期限と割合は改正されうるものです。該当しそうな場合は原文を確認のうえ、税理士または所轄の税務署にご確認ください。

電子帳簿保存法を表すイメージ。ノートパソコンのグラフ画面の横で、チェックリストの項目にペンで印を付けている手元

電子インボイス — 2つの制度が交差する場所

冒頭で触れた「1枚の請求書が両方の制度にかかる」話に戻ります。インボイスは紙でなければならない、という決まりはありません。インボイス・返還インボイスは、その記載事項につき電磁的記録による提供も可能とされています(いわゆる電子インボイス)。

肝心なのがここです。国税庁の資料は「提供した又は受領した電磁的記録については、電子帳簿保存法に準じた方法による保存が必要となります」と明記しています。示されている要件は、電子取引データ保存とほぼ同じ構成です※4

要件内容
次のいずれかの措置を行う(タイムスタンプが付された後に授受/授受後に速やかにタイムスタンプを付す/訂正・削除の記録が残る、または訂正・削除できないクラウドシステム等を使用する/訂正・削除防止に関する事務処理規程を定める)
システム概要書等の備付け
操作説明書の備付け、ディスプレイ及び紙への出力性の確保
検索機能の確保

ここで、電子取引データ保存で見た論点がもう一度出てきます。この電子インボイスの要件には「整然とした形式及び明瞭な状態で出力した書面による保存も認められます」という注記が付いています※4。これは消費税法上の保存についての話です。所得税・法人税に係る保存義務者については書面等への出力保存が廃止されているため、消費税の側で書面保存が認められることをもって、電子取引データ保存の義務が消えるわけではありません※2

指針はひとつです。データで受け取ったものは、データで残す。そのうえで、必要に応じて紙にも出します。この順序なら、どちらの制度から見ても破綻しません。

保存期間 — 何年持てばよいか

電子取引データも、保存期間の考え方は紙の書類と同じです。国税庁の一問一答には、国税関係帳簿書類の保存期間が参考として整理されています※2

区分対象保存期間
法人帳簿(総勘定元帳、仕訳帳、固定資産台帳など)/書類(棚卸表、貸借対照表、損益計算書、注文書、契約書、領収書など)7年
個人(青色)帳簿、決算関係書類、現金預金取引等関係書類7年
個人(青色)その他の書類(請求書、見積書、契約書、納品書、送り状など)5年

法人については、青色申告書を提出した事業年度で欠損金額(青色繰越欠損金)が生じた事業年度などは10年間(平成30年4月1日前に開始した事業年度は9年間)とされ、起算日はその事業年度の確定申告書の提出期限の翌日です。個人事業者は、帳簿はその閉鎖の日、書類はその作成または受領の日の属する年の翌年3月15日の翌日から数えるとされています※2

そして消費税が絡むと期間が上書きされます。消費税の課税事業者が仕入税額控除の要件として保存すべき請求書等、およびインボイス発行事業者として交付した適格請求書の写しや提供した電磁的記録は、上記にかかわらず7年間保存する必要があるとされています。個人事業者で「請求書は5年でよい」と考えていると、ここで食い違います。迷ったら長いほうに合わせるのが安全です※2

データで保存する場合、この期間ずっと読める状態を維持する必要があります。バックアップの保存は法令上の要件ではありませんが、電磁的記録は大量消滅の危険性が高く劣化のおそれもあることから、保存が望まれると説明されています※2クラウドの解約時にデータを取り出せるかは、契約前に確認しておいてください。

優良な電子帳簿とデジタルシームレス保存 — 任意の上乗せ

義務ではありませんが、要件を満たすと税制上の優遇措置が受けられる仕組みがあります。余力が出てきた段階で検討する話です※1

優良な電子帳簿

帳簿について一定の要件を満たすと、その帳簿に関連する過少申告があっても過少申告加算税の割合が原則10%から5%に軽減されます。要件は、訂正・削除・追加の事実および内容を確認できるシステムの使用、帳簿間での記録事項の相互関連性の確保、検索機能の確保、システムの概要書等・見読可能装置の備付けなどです。その課税期間の初日から優良な電子帳簿として備付け・保存を行っていることが必要とされています※1

デジタルシームレス保存

「請求書等の電子取引データを自動で保存し、帳簿に自動連携する仕組み」を指します。要件を満たすと、その電子取引データに関連する仮装・隠蔽行為について重加算税の10%加重の適用対象から除外されます(令和9年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税について適用)。要件は改ざん防止の確保、記帳の適正性確保、電子帳簿との相互関連性確保の3つで、電子取引データ保存の要件を満たしていることが前提です※1

個人事業者には青色申告特別控除75万円(65万円から引き上げ)もあります。「優良な電子帳簿」または「デジタルシームレス保存」のいずれかの要件を満たした上で電子申告する必要があり、令和9年分以後の所得税について適用されます。いずれもあらかじめ届出書の提出が必要で、適用を受ける年分(事業年度)の法定申告期限までに提出すればよいと説明されています※1

中小企業の現実的な進め方 — システム選びと業務フローの見直し

ここまでを踏まえた進め方を示します。順序を間違えないことが、いちばんの近道です。

1データを消さずに残す
2置き場所と命名を決める
3改ざん防止措置を選ぶ
4必要ならシステムを検討

第1に、データを消さずに残す。メールの添付ファイル、ダウンロードした領収書、通販の請求書が今どこにあるかを確認してください。担当者の個人メールボックスの中にしかない、という状態がよくあります。

第2に、置き場所と命名の規則を決める。共有フォルダに集約し、日付・金額・取引先の順でファイル名を付けます。あるいは索引簿を作ります。これだけで検索の要件に手が届きます※1

第3に、改ざん防止の措置を選ぶ。システムを入れないなら事務処理規程です。作るだけでなく運用する点に注意してください。第4に、必要ならシステムを検討する。1から3で何が足りないかが見えてから選ばないと、要らない機能に費用を払うことになります。

システム選びの観点

判断材料のひとつがJIIMA認証です。公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)の認証を受けたソフトは、税制上の優遇措置を受けるための機能要件を満たしているとされます。ただし認証ソフトが自社の帳簿等に対応しているかは別途確認が必要で、優遇措置には機能要件のほかシステムの説明書やディスプレイの備付け等の要件も満たす必要があると注意書きが添えられています※1

業務フローの見直し

制度対応は、システムより受け取り方の設計で決まります。同じ取引先から紙とデータが混ざって届くと、経理はその都度判断を迫られます。取引先ごとに「この会社はデータ」と決めてしまうほうが、現場は迷いません。

あわせて経費精算の入口を見直してください。従業員が受け取った領収書のデータが個人の端末で止まっていると、会社として保存できません。制度対応と業務改善が重なるのはこの部分で、業務の属人化の解消と実質的に同じ作業になります。

よくある詰まりどころ

最後に、実務で引っかかりやすい点をまとめます。

  • 紙に出したからデータを消した。所得税・法人税に係る保存義務者については、書面等への出力保存は廃止されています。猶予措置を使う場合でも、出力書面のみの保存は認められていません※2
  • スキャナ保存が義務だと思い込む。スキャナ保存は希望者のみの制度です※1。紙で受け取ったものは紙のまま保存して構いません。
  • 売上高5,000万円の判定を、消費税の課税売上高で行う。電子帳簿保存法の規則は「売上高」と規定しており、消費税法上の「課税売上高」とは内容を異にするとされています※2
  • 少額特例を商品単位で判定する。一回の取引の金額(税込み)で判定します※6
  • 経過措置の割合を古い数字のまま使う。令和8年度税制改正で見直され、令和8年10月1日以後は70%からの段階になっています※5
  • 受け取ったインボイスの不備を、自社で追記して直す。誤りがあった場合は、売手が修正したインボイスを交付することとされています※4
  • 事務処理規程を作って安心する。要件は「策定、運用、備付け」です※1
専門家に相談すべき場面
次に当てはまる場合は、自社だけで判断せず税理士または所轄の税務署にご確認ください。
・少額特例や経過措置の適用可否が、自社の売上規模で微妙なとき
・2割特例・3割特例・簡易課税のどれを選ぶかで納税額が変わるとき
・過去分重要書類のスキャナ保存や、優良な電子帳簿等の届出を検討しているとき
・海外取引や特殊な業種で、原則どおりに当てはまらない取引があるとき

制度への対応は、突き詰めると「どの書類が、どの経路で、誰のところに届いているか」を把握する作業です。進め方の全体像はDXとは何か業務の棚卸しの手順もあわせてご覧ください。

よくある質問

3つの区分のうち「電子取引データ保存」だけが、法人・個人事業者は対応が必要とされています。「電子帳簿等保存」と「スキャナ保存」は希望者のみの制度です。データで受け取った請求書等をデータのまま保存することが必須で、紙のスキャンや帳簿のデータ化は任意という整理になります。

必ずしも必要ありません。真実性の確保は4つの選択肢のいずれかを満たせばよく、その1つが「改ざん防止のための事務処理規程を策定、運用、備付け」することです。国税庁のパンフレットにも専用のシステムを導入しない方法がある旨が明記され、規程のサンプルも公開されています。ただし要件に「運用」が含まれる点にご注意ください。

「日付・金額・取引先」で探せる状態を作ることが出発点です。国税庁は、表計算ソフト等で連番・日付・金額・取引先を並べた索引簿を作る方法と、日付・金額・取引先の順で規則性をもったファイル名を付けて特定のフォルダに集約する方法を示しています。専用システムがなくても対応できます。

いいえ。国税庁の一問一答は、電子データの保存に代えて出力書面のみを保存する対応は認められないと明記しています。猶予措置を受ける場合も、電子データ自体を保存したうえで、税務調査等の際にデータと出力書面の両方の提示・提出に応じられるようにしておく必要があります。

要件に従って保存するためのシステム等や社内のワークフローの整備が間に合わないなど、要件どおりに保存を行うための環境が整っていない事情がある場合とされています。人手不足やシステム整備の資金不足も含まれると説明されています。一方、整備が整っているのに要件どおり保存していない場合は適用されません。事前届出は不要とされています。

発行事業者の氏名又は名称および登録番号、取引年月日、取引内容(軽減税率の対象品目である旨)、税率ごとに区分して合計した対価の額および適用税率、税率ごとに区分した消費税額等、書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称の6つです。様式は定められておらず、請求書と納品書など複数の書類全体で記載事項を満たすことも認められています。

確認した資料では、税込1万円未満の課税仕入れについて、令和5年10月1日から令和11年9月30日までに行うものが対象とされています。対象者は基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5千万円以下の事業者です。判定は一回の取引の税込金額で行い、商品ごとではありません。期限や条件は改正されうるため、原文の確認をおすすめします。

経過措置により段階的に縮小します。令和8年度税制改正で見直され、令和5年10月からの80%に続き、令和8年10月から70%、令和10年10月から50%、令和12年10月から30%、令和13年10月以降は控除不可とされています。あわせて控除限度額が1億円(改正前10億円)に見直されました。適用には請求書等の保存と、経過措置の適用を受ける旨を記載した帳簿の保存が必要です。

参考文献

  1. ※1 電子帳簿等保存制度を活用して、デジタル化をさらに進めてみませんか?(令和8年6月) 国税庁(2026.08.03確認)
  2. ※2 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和8年7月) 国税庁(2026.08.03確認)
  3. ※3 はじめませんか、書類のスキャナ保存【令和6年1月以降用】(令和5年7月) 国税庁(2026.08.03確認)
  4. ※4 インボイス制度 ~基礎編~(令和8年5月) 国税庁 軽減税率・インボイス制度対応室(2026.08.03確認)
  5. ※5 インボイス制度に関する令和8年度税制改正について(令和8年4月/令和8年5月改訂) 国税庁(2026.08.03確認)
  6. ※6 少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置)の概要 国税庁(2026.08.03確認)

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