助成金の話は、率の大きさだけが独り歩きしがちです。中小企業で経費の75%というコースは実在しますが、それはすべてのAI研修に一律で付く率ではありません。どのコースで、誰が、何%なのか。対象になる訓練とならない訓練はどこで分かれるのか。厚生労働省が公表している令和8年度版の資料を確認しながら、申請の実務まで通しで整理します。
結論:「最大75%」は特定コースの率。まず自社の研修がどのコースに乗るかを決める
AI研修に助成金を使いたい、という相談で最初に出てくるのが「経費の最大75%が助成される」という数字です。この数字自体は実在します。厚生労働省の人材開発支援助成金には、中小企業事業主の経費助成率が75%と定められているコースがあります※2※4。
ただし、75%はすべてのAI研修に一律で付く率ではありません。人材開発支援助成金は7つのコースに分かれており※1、コースごとに助成率が違います。同じ研修でも、どのコースで申請するかによって45%にも75%にもなります。さらに中小企業と大企業でも率が違い、コースによっては賃金要件・資格等手当要件を満たすと上乗せがあります。
ですから、実務で最初に決めるべきなのは金額の試算ではなく、「自社のこの研修は、どのコースの、どのメニューに乗るのか」です。ここを外すと、率の想定も、必要な書類も、期限も全部ずれます。
本記事の数値・期限は、2026年8月3日時点で厚生労働省が公表している令和8年度版の資料(リーフレット・詳細版パンフレット)を確認して記載しています。制度は年度途中でも改正されます。実際の申請前には、必ず最新のパンフレットと支給要領の原文を確認し、管轄の都道府県労働局または社会保険労務士に個別に相談してください。本記事は一般的な情報の整理であり、支給を保証するものではありません。
制度の全体像 — 何に対して、いくら出る制度なのか
人材開発支援助成金は、事業主が雇用する労働者に対して、職務に関連した専門的な知識・技能を習得させるための職業訓練等を、あらかじめ届け出た計画に沿って実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です※1。雇用保険料を財源としており、受給できるのは雇用保険適用事業所の事業主に限られます。
助成は大きく2種類あります。
- 経費助成… 受講料・教材費など、訓練に要した経費に対する助成。率で決まります(例:中小企業75%)。
- 賃金助成… 訓練を受けさせている間に支払った賃金に対する助成。1人1時間あたりの定額で決まります(例:中小企業1,000円)。
この2つは別建てです。「75%」は経費助成の率であって、人件費まで含めた研修の総コストの75%ではありません。ここを混同すると試算が合わなくなります。
制度の骨格は次の3ステップです。①訓練開始前に計画届を出す → ②計画どおりに訓練を実施し、経費を全額支払う → ③訓練終了後に支給申請する。①を飛ばすと、どれだけ良い研修をしても対象になりません。逆に言えば、この順番さえ守れば手続き自体は定型です。
AI研修が乗る可能性があるコースは、主に3つ
7つのコースのうち、企業内のAI研修で現実的に候補になるのは次の3つです※1。それぞれ狙いが違います。
| コース | 想定している場面 | AI研修との相性 |
|---|---|---|
| 人材育成支援コース (人材育成訓練) | 職務に関連した知識・技能を習得させる10時間以上のOFF-JT※3 | 最も汎用的。事業展開やDX計画がなくても、職務関連であれば候補になる |
| 事業展開等リスキリング支援コース | 事業展開、社内のDX化・GX化、人事計画に基づく将来の職務に必要な訓練※2 | 率は最も高い。ただし「なぜ今この訓練が必要か」を計画で示す必要がある |
| 人への投資促進コース | 高度デジタル人材の育成、定額制(サブスクリプション型)研修サービスなど※4 | 高度デジタル人材訓練は要件が厳しい。定額制サービスを使うならこちら |
選び方の軸はシンプルです。「事業展開やDX推進という文脈で説明できるか」が第一の分岐点になります。説明できるなら事業展開等リスキリング支援コース、そこまでの位置づけがないなら人材育成支援コースが素直な選択です。
なお、事業展開等リスキリング支援コースと人への投資促進コースは、令和8年度末までの時限措置と明記されています※2。恒久的な制度ではない点は、社内で予算化するときに共有しておくべき情報です(延長されるかどうかは現時点では確認できません)。
助成率と賃金助成 — コース別・企業規模別の一覧
令和8年度版の資料で確認できた助成率・賃金助成額を並べます。カッコ内は中小企業事業主以外(大企業)の率・額です※2※3※4。
| コース・メニュー | 経費助成率 中小/大企業 | 賃金要件等を 満たす場合 | 賃金助成 (1人1時間) |
|---|---|---|---|
| 人材育成支援コース 人材育成訓練(正規雇用労働者等) | 45%/30% | +15%/+15% | 800円/400円 |
| 人材育成支援コース 人材育成訓練(有期契約労働者等) | 70%(企業規模の別なし) | +15% | 800円/400円 |
| 事業展開等リスキリング支援コース | 75%/60% | 加算の設定なし | 1,000円/500円 |
| 人への投資促進コース 高度デジタル人材訓練 | 75%/60% | 加算の設定なし | 1,000円/500円 |
| 人への投資促進コース 定額制訓練 | 60%/45% | +15% | 対象外 |
75%が出てくるのは、事業展開等リスキリング支援コースと、人への投資促進コースの高度デジタル人材訓練です。いずれも中小企業事業主の場合の率で、大企業は60%です。そしてこの2つには、賃金要件・資格等手当要件による上乗せの設定がありません。つまり「75%+15%で90%」にはなりません。
逆に、最も汎用的な人材育成支援コースの人材育成訓練は、正規雇用労働者を対象にした場合45%(賃金要件等を満たして60%)です。ここを75%と思い込んで稟議を書くと、実際の支給額と大きくずれます。
経費助成には限度額がある — 率だけ見ると読み違える
助成率と同じくらい重要なのが、1人1訓練あたりの経費助成限度額です。率をかけた額がそのまま出るわけではなく、訓練時間数の区分ごとに上限が設けられています※2※3。
| コース/企業規模 | 10時間以上 100時間未満 | 100時間以上 200時間未満 | 200時間以上 |
|---|---|---|---|
| 人材育成支援コース・中小企業 | 15万円 | 30万円 | 50万円 |
| 人材育成支援コース・大企業 | 10万円 | 20万円 | 30万円 |
| 事業展開等リスキリング・中小企業 | 30万円 | 40万円 | 50万円 |
| 事業展開等リスキリング・大企業 | 20万円 | 25万円 | 30万円 |
ここが効いてきます。たとえば10時間程度のAI研修は「10時間以上100時間未満」の区分に入ります。人材育成支援コース・中小企業なら1人あたりの経費助成は最大15万円です。受講料が1人30万円だったとしても、45%をかけた13.5万円は限度内に収まりますが、受講料が1人50万円なら45%で22.5万円となり、限度額15万円で頭打ちになります。
1事業所が1年度に受給できる額にも上限があります。人材育成支援コースは1事業所1年度あたり1,000万円※3、事業展開等リスキリング支援コースは1事業所1年度あたり1億円※2と定められています。また、助成対象となる訓練の受講回数は、1労働者につき1年度で3回までです※2。
「75%」を素直に受け取らないための3つの注意
率と限度額を押さえたうえで、AI研修でとくに影響が出やすい3点を挙げます。
1つ目、eラーニング・通信制は経費助成の上限が別枠で下がります。事業展開等リスキリング支援コースの場合、eラーニングによる訓練等および通信制による訓練等は、訓練時間数にかかわらず中小企業15万円・大企業10万円が一律の上限になります※2。通学制や同時双方向型の通信訓練と組み合わせて実施した場合も、この一律の上限が適用されます。オンデマンド型のAI講座を想定していると、ここで試算が大きく変わります。
2つ目、eラーニング・通信制・定額制サービスは賃金助成の対象外です※2※3。経費助成は受けられても、受講時間分の賃金助成は出ません。「経費75%+賃金1,000円/時」という前提で組んだ試算は、実施方法を変えた瞬間に崩れます。
3つ目、所定労働時間外・休日に実施した訓練は賃金助成の対象外です※2。業務時間外に受けさせる設計にすると、賃金助成が丸ごと落ちます。あらかじめ振り替えた所定休日は除くとされていますが、この扱いは細かいので事前に労働局へ確認してください。
①コースとメニューを決める → ②実施方法(通学制/同時双方向型/eラーニング等)を決める → ③その組み合わせの率と限度額を確認する → ④受講者数と時間数を当てはめる。この順番でないと、後から実施方法が変わったときに全部やり直しになります。研修の稟議に助成金を書く際の注意点はAI研修の費用対効果をどう説明するかでも整理しています。
賃金要件・資格等手当要件による上乗せ
コースによっては、訓練後に賃上げや資格等手当の支払いを行った場合に、助成率・助成額が加算されます。これが賃金要件と資格等手当要件です※5。
| 賃金要件 | 資格等手当要件 | |
|---|---|---|
| 内容 | 毎月決まって支払われる賃金(基本給および諸手当)を、訓練終了日の翌日から1年以内に5%以上増加させること | 資格等手当の支払いを就業規則・労働協約・労働契約等に規定したうえで、訓練終了後1年以内に全ての対象労働者へ実際に支払い、賃金を3%以上増加させること |
| 確認のしかた | 対象労働者ごとに、賃金改定後3か月間と改定前3か月間の賃金総額を比較し、全員が5%以上増加していること | 対象労働者ごとに、手当支払い後3か月間と支払い前3か月間の賃金総額を比較し、全員が3%以上増加していること |
| 申請 | 加算分は別途申請。全ての対象労働者に要件を満たす賃金または資格等手当を3か月間継続して支払った日の翌日から起算して5か月以内 | |
注意点が2つあります。まず「全ての対象労働者が」という要件です。1人でも満たさなければ加算は付きません。次に加算分は自動では付かず、別途の申請が必要である点です。通常分の支給決定で終わったつもりになって、期限を過ぎてしまう例が起こり得ます。
また、支払い後に合理的な理由なく当該賃金や手当を引き下げる場合等は、加算の対象となりません※5。手当を新設する場合は、就業規則の改定とセットで設計してください。資格等手当そのものの設計は資格取得支援制度のつくり方で扱っています。
中小企業かどうかの判定 — 支給申請時点の企業規模で決まる
助成率が企業規模で変わる以上、自社がどちらに当たるかの確認は避けて通れません。判定は「主たる事業」ごとに、資本金の額または出資の総額と企業全体で常時雇用する労働者の数のいずれかで行い、どちらかの基準に該当すれば中小企業事業主となります※2。
| 主たる事業 | 資本金の額または出資の総額 | 企業全体で常時雇用する労働者の数 |
|---|---|---|
| 小売業(飲食店を含む) | 5,000万円以下 | 50人以下 |
| サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
ポイントは3つです。判定の時点は支給申請時点であること※2。「主たる事業」は総務省の日本標準産業分類の業種区分に基づくこと。そして個人事業主・一般社団法人・医療法人・学校法人・社会福祉法人など資本金等を持たない事業主は、労働者数だけで判断することです。
「常時雇用する労働者」の数え方にも定義があり、2か月を超えて使用される者で、かつ週の所定労働時間が通常の労働者とおおむね同等である者を指します※2。パート・アルバイトの扱いで迷う場合は、自己判断せず労働局に確認してください。判定を誤ると、率だけでなく限度額も変わります。
対象になる訓練の条件 — 10時間以上・OFF-JT・職務関連
コースが決まったら、次は研修の中身が要件を満たすかどうかです。共通する基本要件は3つです※2※3。
- OFF-JTであること… 企業の事業活動と区別して、業務の遂行の過程外で行われる訓練であること。自社の会議室で実施する場合でも、受講中に生産ラインや通常業務に従事していないことが求められます。
- 実訓練時間数が10時間以上であること… 総訓練時間数から、昼食などの食事を伴う休憩時間や移動時間、対象外の内容の時間を除いた時間数で判定します。eラーニング・通信制の場合は標準学習時間が10時間以上、または標準学習期間が1か月以上であることが要件です。
- 職務に関連した専門的な知識・技能の習得を目的とすること… 対象労働者の職務と訓練内容の関連が問われます。事業内容を問わず職務関連と判断される例として、営業企画に対するWebマーケティングの訓練、社内DXのプロジェクトリーダーに対するプロジェクト推進力の訓練などが挙げられています※2。
時間数のカウントには細かい取り扱いがあります。小休止(訓練の合間の1回30分以下の休憩)は1日あたり累計60分まで、開講式・閉講式・オリエンテーションは1回の職業訓練実施計画届あたり累計60分まで含めることができます※2。一方で、昼食を伴う休憩と移動時間は含められません。eラーニング等では小休止も含められません。
「ちょうど10時間」で組んだカリキュラムは、これらを差し引くと10時間を切ることがあります。時間数には余裕を持たせるのが実務上の鉄則です。
対象にならない訓練 — AI研修で引っかかりやすいところ
ここが最も判断が要るところです。実施目的・実施方法が一定のものに該当すると助成対象になりません。カリキュラム全体のうち一部に含まれる場合も、その時間は対象から除外されます※2。
| 対象にならないもの | 資料に挙げられている例 |
|---|---|
| 職務に直接関連しない訓練 | 普通自動車運転免許の取得のための講習など。ただし社内でDX化・GX化を進める上で必要な訓練である場合は除く |
| 職種を問わず共通して必要となるもの | 接遇・マナー講習など社会人としての基礎的なスキルの講習。こちらもDX化・GX化に必要な訓練である場合は除く |
| 趣味教養を身につけることを目的とするもの | 日常会話程度の語学の習得のみを目的とする講習、話し方教室 |
| 通常の事業活動として遂行されるもの | コンサルタントによる経営改善の指導、マニュアルの作成・改善、自社製品やサービスの説明、自社の業務で用いる機器・端末等の操作説明 |
| 職業能力開発に直接関連しないもの | 講演会、研究会、座談会、見学会、ビジネス交流会、オンラインサロン |
| 職務に関する知識・技能の習得を目的としないもの | 意識改革研修、モラール向上研修 |
AI研修で注意すべき記載が、事業展開等リスキリング支援コースの案内にあります。「単にデジタル機器を使用して文章・数値の入力や、書式・レイアウトの変更程度の初歩的な操作を行う内容のみの訓練は対象になりません」「単に既存のアプリやシステムを購入してその操作方法を習得する場合や、コンサルタントによる指導は、対象になりません」と明記されています※2。
つまり「ツールの操作説明だけで終わるカリキュラム」は不利だということです。逆に、自社の業務課題に対して手法として使えるようにする内容であれば、職務関連の専門的な知識・技能として説明しやすくなります。研修そのものの選び方は中小企業のAI研修の選び方で整理しています。
実施方法にも制限があります。労働基準法第39条の年次有給休暇を与えて受講させる訓練、専らビデオのみを視聴して行う講座(eラーニング等を除く)、海外・洋上で実施するもの、教材を使用せずに行う講習などは対象外とされています※2。
対象になる経費・ならない経費
経費助成の対象になるのは、あらかじめ受講案内等で定められている入学料・受講料・教科書代等です(外部の教育訓練機関に委託する「事業外訓練」の場合)※2。消費税も対象経費に含まれます。
| 対象になる | 対象にならない | |
|---|---|---|
| 事業外訓練 | 入学料・受講料・教科書代等(受講案内等で定めているものに限る) | 訓練等に直接要する経費以外(受講生の旅費・宿泊費など)、密接な関係にある教育訓練機関に支払うもの |
| 事業内訓練 | 部外講師への謝金、部外講師の旅費(国内招へい5万円が上限)、会場・備品の借上費、教科書・教材の購入費 | 繰り返し活用できる教材(ソフトウェア、学習ビデオ等)、汎用的に使うパソコン・周辺機器、経営指導料などコンサルタント料に相当するもの |
| その他 | 消費税、一定の職業能力検定に要した経費、キャリアコンサルティングに要した経費、一定の資格・試験の受験料 | eラーニング・通信制に係る経費(事業内訓練の場合) |
資格試験の受験料については条件があります。対象となるのはITスキル標準(ITSS)レベル2・3・4、DX推進スキル標準(DSS-P)レベル2・3・4の資格試験、公的職業資格、教育訓練給付指定講座分野・資格コード表に記載される資格・試験で、訓練終了日の翌日から原則6か月以内に受験する場合に限られます。受験料単独では申請できず、1つの職業訓練実施計画届につき1回までです※2。
講師謝金には上限額があり、その額はコースによって異なります。事業展開等リスキリング支援コースでは実訓練時間数1時間あたり3万円(消費税込み)※2、人材育成支援コースでは1時間あたり1万5千円(消費税込み)※3と定められています。同じ「人材開発支援助成金」でも数字が違うので、必ず該当コースのパンフレットで確認してください。
もう1つ重要なのが「密接な関係にある者」という考え方です。代表者の3親等以内の親族、自社の親会社・子会社、過去3年以内に自社の代表者や従業員だった者などが講師・教育訓練機関である場合、その経費は対象外になります※2。グループ会社の研修部門に委託するケースは、事前に確認が必要です。
厚生労働省のパンフレットには、不適正な勧誘の例として次の記載があります。
「AI研修とAIツールの導入をセットで行うことにより、AIツールの導入費用についても研修費用として申請することができる」→「AI研修費用は対象経費ですが、AIツール導入費用は対象経費ではありません」※2
研修とツール導入をまとめた見積になっている場合、ツール利用料・ライセンス費用は分けて計上する必要があります。契約前に内訳を分けてもらってください。
申請の期限 — 計画届は「1か月前」、支給申請は「2か月以内」
制度の入口であり、最もつまずきやすいのがここです。
職業訓練実施計画届は、訓練開始日の6か月前から1か月前までの間に、事業所の所在地を管轄する労働局へ提出します※2※3。訓練を始めてから、あるいは開始2週間前に気づいても間に合いません。提出期間を過ぎた場合は原則として助成対象になりません※2。
期間の数え方には独特のルールがあり、資料には具体例が示されています※3。
| 訓練開始日 | 計画届の提出期間 |
|---|---|
| 7月1日 | 1月1日から6月1日まで |
| 7月31日 | 1月31日から6月30日(6月31日がないためその前日)まで |
| 9月30日 | 3月30日から8月30日(前月の同日が期限。31日ではない)まで |
| 3月31日 | 9月30日(9月31日がないためその前日)から2月28日(2月29日まである場合は2月29日)まで |
「1か月前」は前月の同日であり、月末をまたぐと直感とずれます。提出期限が土日祝の場合は翌開庁日が期限です。
提出方法は窓口への直接提出・郵送・電子申請システム(雇用関係助成金ポータル)の3つです。郵送は消印ではなく労働局に到達した日が提出日になるため、配達記録が残る方法で余裕をもって送る必要があります。電子申請にはGビズIDの取得が必要で、計画届を電子申請で出していない場合、その後の変更届・支給申請を電子申請で行うことはできません※2。最初の入口で方式を決めておいてください。
計画に変更が生じたときは変更届が必要です。期限を守らずに変更後の訓練を実施すると、その部分は助成対象になりません※2。
| 変更の内容 | 提出期限 |
|---|---|
| 対象労働者を追加する場合 | 訓練開始日の前日まで |
| 実施日時・実施内容・実施場所・実訓練時間数など、事前の届出が必要な変更事由 | 当初計画していた訓練実施日または変更後の訓練実施日の、いずれか早い方の日の前日まで |
| 対象労働者の病気・けが、天災等やむを得ない理由による変更 | 変更後の訓練実施日の翌日から7日以内 |
なお、訓練開始日を1か月以上後ろ倒しにする場合は、変更届ではなく改めて計画届を提出することになります※2。日程がずれやすい研修では、この扱いを最初に押さえておくと慌てません。
訓練の実施中に守ること
計画届を出したら、あとは計画どおりに実施するだけ、ではありません。実施中に満たすべき要件があります。
- 受講率の要件。通学制または同時双方向型の通信訓練の場合、対象労働者の受講時間数が実訓練時間数の8割以上である必要があります※2。欠席が重なった受講者は、その人だけ対象から外れます。出席の管理は研修事務局の仕事です。
- 訓練期間中の賃金を適正に支払うこと。所定労働時間外や休日に訓練を行った場合は、割増賃金を含めて適正に支払う必要があります※2。eラーニングであっても、業務上義務付けられた訓練は労働時間に該当するため、その間の賃金支払いが必要とされています。
- 年次有給休暇を与えて受講させないこと。労働基準法第39条の年次有給休暇を使って受講させる訓練は、助成の対象になりません※2。
- 経費を支給申請までに全額支払うこと。受講者に一部でも負担させている場合は、賃金助成を含めて不支給になります※2。
さらに、労働局の職員が事前連絡の有無にかかわらず訓練の実施場所を訪問し、実施状況を確認することがあります※2。必要に応じて受講者本人への聴取も行われます。調査に協力できない場合は不支給とされているため、外部会場で実施する場合も、当日の受入体制を訓練実施者と共有しておいてください。
訓練期間中に対象労働者から退職の申し出があった場合、申し出日以降に実施される訓練は賃金助成の対象になりません※3。人事異動や退職が見込まれる時期の受講者選定は、この点を踏まえて決めることになります。
支給申請 — 2か月以内と、そろえる書類
支給申請の期限は、訓練終了日の翌日から2か月以内です。厳守と明記されています※2※3。訓練終了日とは、職業訓練実施計画届の「訓練の実施期間」の最終日に記載した日を指します。郵送の場合、労働局への到達日が申請期限を超過すると、いかなる場合も受付けられないとされています※2。
主な提出書類は次のとおりです※2。
| 区分 | 書類 |
|---|---|
| 共通 | 支給要件確認申立書、支給申請書、経費助成の内訳、賃金助成の内訳(通学制・同時双方向型の場合) |
| 訓練の実施状況 | OFF-JT実施状況報告書、修了証の写し等(実施方法により様式が異なる) |
| 労働条件・勤怠 | 対象労働者の雇用契約書または労働条件通知書の写し、賃金台帳または給与明細書の写し、出勤簿またはタイムカードの写し |
| 経費の支払い | 入学料・受講料等に係る請求書および領収書、または振込通知書の写し等 |
| 訓練実施者 | 支給申請承諾書(訓練実施者)(事業外訓練の場合) |
| 価格設定 | 受講料等の価格設定に関する疎明書(様式第28号) |
最後の疎明書(様式第28号)は、令和8年5月14日付けの支給要領改正で追加されたものです。訓練計画届の提出時期を問わず、令和8年5月14日時点で支給申請が行われていないもの、または支給申請済みでまだ支給・不支給決定がされていないものについて、提出が必要とされています※1。経費助成の申請がない場合は不要です※2。
書類には形式の要件もあります。原本から転記したり別途作成したものではなく、実際に事業場ごとに調製し記入しているもの、または原本を複写機で複写したものを提出する必要があり、加工・転記したものと確認された場合は無効になります。また一度提出した書類の差し替えや訂正は、事業主の都合ではできないとされています※2。提出前の確認が効きます。
社内側の準備 — 計画・推進者・就業規則・賃金台帳
助成金の要件は、研修の外側にもあります。ここが整っていないと、計画届の段階で止まります。
| 準備するもの | いつまでに | 備考 |
|---|---|---|
| 職業能力開発推進者の選任 | 計画届を提出する日まで | 人事・教育訓練等の担当部署の部課長などを選任。職業能力開発促進法第12条で事業主の努力義務とされています |
| 事業内職業能力開発計画の策定・周知 | 計画届を提出する日まで | 労働組合等の意見を聴いて作成し、内容を労働者に周知していることが要件 |
| 雇用契約書・労働条件通知書 | 支給申請時 | 職務内容、所定労働時間、休日、賃金などが分かるもの |
| 賃金台帳・出勤簿またはタイムカード | 支給申請時 | 訓練受講日が属する賃金対象期間のもの。日ごとに始業・終業・休憩が分かること |
| 就業規則等への規定 | 資格等手当要件を使う場合 | 資格等手当の支払いを就業規則・労働協約・労働契約等に規定したうえで支払うことが要件 |
| 定期的なキャリアコンサルティングの機会の確保 | 人材育成支援コースを使う場合 | 労働協約・就業規則・事業内職業能力開発計画のいずれかに、対象時期を明記して定めていることが要件 |
| 関係書類の保管 | 支給決定後5年間 | 整備・保管していない事業主は支給対象外とされています |
事業内職業能力開発計画は様式が定められておらず、自社で作ることになります。「作ってあるが周知していない」状態は要件を満たしません。作り方と周知の考え方は人材育成計画(事業内職業能力開発計画)の作り方で扱っています。
勤怠の記録も落とし穴です。日ごとに始業時刻・終業時刻・休憩時間が分かる形が求められるため、月次の勤務時間合計しか残していない運用だと、支給申請の段階で出せる書類がないという事態になります。研修の話を始める前に、いま社内にどの記録が残っているかを確認しておいてください。
不支給・減額になりやすい理由と、「実質無料」の勧誘
資料には、対象外となる例として次のようなものが挙げられています※2。
- 職業訓練実施計画届を、訓練開始日から起算して6か月前から1か月前までの間に提出していない場合
- 訓練計画を変更する際に、定められた期日までに変更届を提出していない場合
- 訓練終了日の翌日から起算して2か月以内に支給申請を行わない場合
- 事業主が訓練にかかる経費を全額負担していない場合
- 実訓練時間数が10時間未満の場合
このほか、労働保険料の未納、支給申請日前日の過去1年間の労働関係法令違反、審査への非協力、書類の不備なども支給されない事由として挙げられています※2。
見落とされやすいのが解雇に関する要件です。人材育成支援コースでは、職業訓練実施計画届の提出日の前日から起算して6か月前の日から支給申請書の提出日までの間に、その計画を実施した事業所で雇用する被保険者を解雇等事業主都合により離職させた事業主は対象外とされています。あわせて、同じ期間に特定受給資格者となる離職理由で離職した者の割合が6%を超える場合も対象外です(該当者が3人以下の場合を除く)※3。研修を計画する時期と人員整理の時期が重なると、要件を満たせなくなります。なお支給対象事業主の要件はコースによって異なりますので、使うコースのパンフレットで確認してください。
減額の論点として明確に書かれているのが受講料の価格設定です。同一の訓練内容であるにもかかわらず、助成金を申請する事業主とそうでない事業主で受講料に著しい差がある場合、その差額部分は支給対象になりません。資料には「助成金を申請する事業主の受講料は30万円、申請しない事業主の受講料は10万円という価格設定の場合、差額の20万円分は支給対象となりません」という具体例が示されています※2。令和8年5月14日から疎明書の提出が求められるようになったのも、この論点に対応するものです※1。
厚生労働省は、助成金を活用して従業員に訓練を実質無料で受けさせられると謳い、本来受けることができない助成金・訓練の提案や勧誘を行う訓練機関やコンサルティング会社が存在するという情報が寄せられていることを、専用のリーフレットで注意喚起しています※6。
教育訓練機関等からの返金、広告宣伝業務の対価としての金銭、営業協力費・協賛金などの名目での金銭、クーポンや無償のサービス提供を受けた場合は、訓練経費を全額負担したことにならず、経費助成の対象になりません※2。
不正受給と判断された場合、助成金の返還に加えて不正受給額の20%相当額と年3%の延滞金、事業主名・代表者名の公表、5年間の不支給措置が科され、悪質な場合は刑事告訴の対象になるとされています※2※6。「実質負担ゼロ」を売り文句にする提案を受けたら、契約前に労働局へ相談してください。
併給調整と、支給までにかかる時間
同一の経費、賃金、訓練実施を対象として他の助成金や補助金等を申請する場合、どちらか一方しか支給されない場合があります。これが併給調整です※2。自治体の研修助成やDX関連の補助金と重ねて使えるかどうかは、それぞれの制度を所管する労働局・自治体・団体に確認する必要があります。
人材開発支援助成金の中でも重複の制限があります。定額制サービスによる訓練については、人への投資促進コースの定額制訓練・自発的職業能力開発訓練と、事業展開等リスキリング支援コースの定額制サービスによる訓練を合わせて、1労働者につき1年度で3回までとされています※2。また、同一の事業所を対象に同じ内容の定額制サービスを契約した場合、契約期間が一部でも重複している部分は原則として支給対象と認められません※2。
支給までの期間について、資料には具体的な月数の記載はありません。書かれているのは「助成金の支給に当たっては厳正な審査を行います。確認項目が多いため、他の助成金よりも支給可否の決定までに時間がかかります」という記述です※2。したがって本記事でも「何か月で入金される」とは書けません。入金を前提に資金繰りを組まないことが実務上の結論になります。
もう1つ、令和7年度以降は助成金の支給・不支給の決定に係る審査が支給申請後に一括して行われる形になっています。資料には「計画届を提出したことをもって、助成金が確実に支給されるものではありません」と明記されています※2。計画届が受理されたことを「内定」と受け取らないでください。
中小企業が現実的に使う順番と、相談先
ここまでを踏まえた進め方を、順番に整理します。
1. 社内の前提を整える。雇用保険適用事業所であること、職業能力開発推進者を選任していること、事業内職業能力開発計画を策定・周知していること。加えて、日ごとの勤怠記録と賃金台帳が支給申請に耐える形で残っているかを確認します。ここが最も時間がかかるので、研修の話より先に着手してください。
2. コースとメニューを決める。事業展開やDX推進の文脈で説明できるなら事業展開等リスキリング支援コース、汎用的な職務関連訓練として実施するなら人材育成支援コースが出発点です。率だけで選ばず、要件と提出書類の重さも見比べてください。
3. 研修内容と実施方法を固める。10時間以上のOFF-JTで、ツールの操作説明だけに終わらない構成にする。実施方法(通学制・同時双方向型・eラーニング等)によって率も限度額も賃金助成の可否も変わるため、ここは同時に決めます。
4. 労働局に事前相談する。資料には「訓練の内容などによって、事案ごとに判断が必要となる場合があります」と繰り返し書かれています※2。カリキュラムを持って相談すれば、対象になりにくい部分を事前に指摘してもらえます。初めて申請する場合は窓口へ足を運ぶことが推奨されています。
5. 計画届を出す。訓練開始日の1か月前が最終期限です。研修会社の日程調整と並行して、この期限から逆算してください。
・管轄の都道府県労働局・ハローワーク… 支給要件、対象可否、申請手続きの正式な窓口です。
・社会保険労務士… 助成金は個別の事情によって判断が分かれます。就業規則の改定や賃金要件の設計を伴う場合はとくに、専門家に確認することをおすすめします。なお、社会保険労務士法第27条により、社会保険労務士または社会保険労務士法人でない者が、報酬を得てこの助成金の支給申請手続き業務(申請書の作成、提出代行、申請後の審査への対応等)を行うことは禁止されています※2。研修会社が「申請手続きも無償で代行します」と説明する場合について、受講料の中に手続きの対価が含まれていると評価されれば同条の問題が生じる、という注意喚起も出ています※2。
・認定経営革新等支援機関… 事業展開等リスキリング支援コースで「企業内の人事及び人材育成に関する計画」に基づく訓練を行う場合、中小企業は事前に計画内容の確認を受ける必要があります※2。
なお、厚生労働省から委託を受けたと装って助成金の申請や無料査定を勧誘する事業者が存在するとの情報が寄せられており、厚生労働省や労働局・ハローワークはこのような勧誘に関与していないと明言しています※2。心当たりのない勧誘は、労働局に確認してください。
最後にもう一度書きます。この制度は、訓練実施後に審査が行われる仕組みであり、受講すれば必ず助成金が受給できると厚生労働省や労働局が保証することはありません※2。率の大きさではなく、要件を満たせる設計になっているかで判断してください。
よくある質問
10時間以上のOFF-JTで、対象労働者の職務に関連した専門的な知識・技能の習得を目的とする訓練であれば、要件を満たすことで対象になり得ます。ただし単にデジタル機器の初歩的な操作を行うだけの内容や、既存のアプリ・システムの操作方法を習得するだけの内容は対象にならないとされています。対象可否は事案ごとの判断になるため、カリキュラムを持って管轄の労働局にご相談ください。
2026年8月3日時点で確認できた範囲では、経費助成率75%は事業展開等リスキリング支援コースと、人への投資促進コースの高度デジタル人材訓練における、中小企業事業主の率です。いずれも大企業は60%です。最も汎用的な人材育成支援コースの人材育成訓練(正規雇用労働者等)は中小企業45%、大企業30%で、賃金要件・資格等手当要件を満たすとそれぞれ+15%となります。
なりません。事業展開等リスキリング支援コースと高度デジタル人材訓練には、賃金要件・資格等手当要件による加算の設定がありません。+15%の加算があるのは、人材育成支援コースの人材育成訓練や、人への投資促進コースの定額制訓練などです。加算分は自動では付かず、別途の申請が必要です。
率をかけた額がそのまま出るわけではなく、1人1訓練あたりの経費助成限度額があります。10時間以上100時間未満の区分では、人材育成支援コースが中小企業15万円・大企業10万円、事業展開等リスキリング支援コースが中小企業30万円・大企業20万円です。eラーニングや通信制による訓練は、事業展開等リスキリング支援コースの場合、訓練時間数にかかわらず中小企業15万円・大企業10万円が一律の上限になります。
訓練開始日の6か月前から1か月前までの間に、事業所の所在地を管轄する労働局へ提出します。提出期間を過ぎた場合は原則として助成対象になりません。「1か月前」は前月の同日を指すため、月末をまたぐ日程では数え方に注意が必要です。郵送の場合は消印ではなく労働局への到達日が提出日になります。
標準学習時間が10時間以上または標準学習期間が1か月以上であることなど、要件を満たせば経費助成の対象になり得ます。ただしeラーニング・通信制・定額制サービスによる訓練は賃金助成の対象外です。また事業展開等リスキリング支援コースでは経費助成の上限が別枠で下がるため、通学制を前提にした試算をそのまま当てはめることはできません。
経費助成を受けるには、訓練経費を支給申請までに事業主が全額負担していることが必須要件です。教育訓練機関等から返金や広告協力の対価、営業協力費・協賛金などの名目で金銭を受け取った場合は、全額負担したことにならず助成対象になりません。厚生労働省は、実質無料になると謳う勧誘への注意喚起を専用のリーフレットで行っています。契約前に労働局へご相談ください。
いいえ。資料には「計画届を提出したことをもって、助成金が確実に支給されるものではありません」と明記されています。令和7年度以降、支給・不支給の決定に係る審査は支給申請後に一括して行われる形になっています。訓練実施後の審査で要件を満たさないと判断されれば不支給になります。
厚生労働省の資料には具体的な期間の記載がなく、「確認項目が多いため、他の助成金よりも支給可否の決定までに時間がかかります」と書かれているのみです。したがって本記事でも期間は示せません。入金時期を前提にした資金繰りは組まず、いったん全額を自社で負担できる計画にしておくことをおすすめします。
申請自体は事業主が行うことができ、窓口・郵送・電子申請のいずれも利用できます。ただし助成金は個別の事情によって判断が分かれ、就業規則の改定や賃金要件の設計を伴う場合もあります。判断に迷う点があれば、社会保険労務士や管轄の労働局に確認したうえで進めてください。
参考文献
- ※1 人材開発支援助成金(コース一覧・お知らせ) 厚生労働省(2026.08.03確認)
- ※2 令和8年度版 人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内 詳細版(令和8年5月14日版・PDF) 厚生労働省(2026.08.03確認)
- ※3 令和8年度版 人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内 詳細版(令和8年5月14日版・PDF) 厚生労働省(2026.08.03確認)
- ※4 令和8年度版 人材開発支援助成金(人への投資促進コース)のご案内(令和8年4月8日版・PDF) 厚生労働省(2026.08.03確認)
- ※5 賃上げ、資格手当等の支払いにより賃金を上昇させた事業所は助成額が割増されます(賃金要件・資格等手当要件・PDF) 厚生労働省(2026.08.03確認)
- ※6 人材開発支援助成金「訓練経費」は無料になりません(PDF) 厚生労働省(2026.08.03確認)
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