2026年10月1日から、カスタマーハラスメント防止のための措置が事業主の義務になるとされています。用意すべきものは、突き詰めれば方針文・対処の内容・相談窓口の3つです。指針と解釈事項の記載をもとに、施行までの決めごとを順に整理します。
結論:義務は10項目、用意する文書は2本
2026年10月1日から、事業主にはカスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)防止のための雇用管理上の措置が義務づけられます※1。厚生労働省のリーフレットは講ずべき措置を①から⑩までの10項目に整理しています※3。「いつ形になるか」で分けると見通しが立ちます。
| 区分 | 該当する項目 | いつ形になるか |
|---|---|---|
| 文書を作れば形になる | ①方針の明確化・周知/②カスハラの内容と対処の内容の周知/⑧特に悪質なものへの対処方針/⑨プライバシー保護/⑩不利益取扱いの禁止 | 施行日前に完了できる |
| 窓口を決めれば形になる | ③相談窓口の設置と周知 | 施行日前に完了できる |
| 動ける状態にしておく | ④相談窓口担当者が適切に対応できるようにする | 施行日前に準備し、以後も継続 |
| 事案が起きたときに実行する | ⑤事実関係の確認/⑥被害者への配慮/⑦再発防止 | 手順を決めておき、発生時に実行 |
用意すべき成果物は、突き詰めれば「方針を書いた文書」「対処の内容を書いた文書」「相談窓口の設置と周知」の3つです。難所は「どこからがカスハラか」を現場が判断できる言葉で書くことにあります。
根拠法は令和7年法律第63号(令和7年6月11日公布)※1。指針は令和8年厚生労働省告示第51号として令和8年2月26日に公布され、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号)第33条第1項から第3項までの規定を受け、同条第4項に基づき定められたものです※2。厚生労働省雇用環境・均等局雇用機会均等課「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」(解釈事項Q&A)は令和8年4月24日付・令和8年10月1日適用で、実務で迷う論点の多くはここに示されています※4。
カスハラとは何か — 3要素と、正当な申入れとの切り分け
指針は、職場におけるカスハラを①顧客等の言動であって、②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものと定義し、3要素を全て満たすものとしています。1つでも欠ければ該当しません。苦情の全てが該当するわけではなく、客観的にみて社会通念上許容される範囲で行われたものは、いわば正当な申入れであり、カスハラには当たらないと明記されています。もう1つの「当たらないもの」は、障害者から労働者に対して、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)で禁止されている不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を必要としている旨の意思表明です※2。ここを方針文に書き落とすと、現場が誤った線引きをします。
③は就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指し、判断は「平均的な労働者の感じ方」を基準とすることが適当とされています。頻度や継続性は考慮しますが、強い身体的又は精神的苦痛を与える態様の言動は1回でも就業環境を害する場合があり得るとされます。対面だけでなく電話やSNS等のインターネット上のものも含まれます※2。
難しいのは②です。指針は「社会通念上許容される範囲を超えた」言動を言動の内容が契約内容からして相当性を欠くもの、又は手段や態様が相当でないものとし、一方のみが範囲を超える場合でも該当し得るとしています。判断では、言動の目的、経緯や状況(受けた労働者の問題行動の有無や程度を含む)、業種・業態、業務の内容・性質、態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性を総合的に考慮することが適当とされ、事業主又は労働者の側の不適切な対応が原因や背景となっている場合もあることにも留意が必要とされています※2。判断の主体は自社です。都道府県労働局が個々の言動の該当性を判断することはありません※4。現場には「要求の中身」と「伝え方」の2つを見る形に落とし、迷ったら管理監督者に上げると添えてください。
指針が挙げる典型例 — 「内容」と「やり方」
指針は典型例を挙げていますが、個別の事案によって判断が異なる場合もあり得ること、限定列挙ではないことに十分留意し、広く相談に対応するなど適切な対応を行うことが必要とされています※2。判定表ではありません。
| 言動の内容が範囲を超えるもの | 指針が挙げている例※2 |
|---|---|
| そもそも要求に理由がない、又は商品・サービス等と全く関係のない要求 | 性的な要求や、労働者のプライバシーに関わる要求をすること |
| 契約等により想定しているサービスを著しく超える要求 | 契約内容を著しく超えたサービスの提供を要求すること |
| 対応が著しく困難な、又は対応が不可能な要求 | 契約金額の著しい減額の要求をすること |
| 不当な損害賠償要求 | 商品やサービス等の内容と無関係である不当な損害賠償要求をすること |
| 手段や態様が範囲を超えるもの | 指針が挙げている例※2 |
|---|---|
| 身体的な攻撃(暴行、傷害等) | 殴る、蹴る、叩く等の暴行。物を投げつけること。わざとぶつかること。つばを吐きかけること |
| 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等) | 店舗の物を壊すことやSNS等へ悪評を投稿することをほのめかす発言による脅し。人格を否定するような言動。土下座の強要。盗撮や無断での撮影。性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報を了解なく暴露すること、開示を強要すること、又は禁止すること |
| 威圧的な言動 | 大きな声をあげて労働者や周囲を威圧すること。反社会的な言動 |
| 継続的、執拗な言動 | 同様の質問を執拗に繰り返すこと。当初の話からのすり替え、揚げ足取り、執拗な責め立て。同様の電子メール等を執拗に繰り返し送りつけること |
| 拘束的な言動(不退去、居座り、監禁) | 長時間に渡る居座りや電話で労働者を拘束すること |
転記時は「無断での撮影」の読み方に注意が要ります。解釈事項Q&Aは、これは労働者に撮影をやめるように言われたにもかかわらず撮影し続ける等の行為を意味しているとし、無断での撮影の全てが直ちに該当するものではないと明記しています※4。「店内での撮影は禁止」とだけ書くと趣旨から離れます。
誰を守るのか — 「職場」「労働者」「顧客等」の範囲
| 用語 | 指針が示す範囲※2 |
|---|---|
| 職場 | 労働者が業務を遂行する場所。通常就業している場所以外でも業務を遂行する場所は含まれ、取引先の事務所、打合せのための飲食店、顧客の自宅等も該当する |
| 労働者 | 正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員等の非正規雇用労働者を含む、事業主が雇用する労働者の全て |
| 顧客等 | 顧客(潜在的な顧客を含む)、取引の相手方(今後取引する可能性のある者を含む)、施設の利用者(駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設等を利用する者。今後利用する可能性のある者を含む)その他の事業に関係を有する者。例として取引先の担当者、契約締結交渉の担当者、施設・サービスの利用者及びその家族、施設の近隣住民 |
解釈事項Q&Aはこれを具体化しています。契約関係が発生していない者からの言動も3要素を全て満たせば該当し、今後顧客になることが想定されるか否かを問わず施設の近隣に住む者からの言動も同様です。周知も同じで、顧客対応が発生しない部署の労働者にも措置を講じる必要があり、周知・啓発は所属部署や雇用形態を問わず全ての労働者に対して行う必要があります※4。「うちは接客業ではない」「店舗スタッフにだけ配る」という設計は取れません。派遣労働者については、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)第47条の4の規定により派遣先も雇用する事業主とみなされ、派遣先も自社の労働者と同様に配慮および措置を講ずることが必要です※2。
講ずべき10項目の措置 — 方針の明確化と、対処の内容
最初の区分は「事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発」で、カスハラには毅然とした態度で対応し労働者を保護する旨の方針を明確化して管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること、およびカスハラの内容とあらかじめ定めた対処の内容を周知することが求められます。認められる例は、社内報・社内ホームページ等への記載と配布(トップメッセージとしての社内発信も考えられる)と、研修・講習。指針は発生の原因や背景には商品・サービス・接客等における問題やコミュニケーションの不足などもあるとし、その解消も重要としています※2。顧客等への周知は義務ではありませんが効果的とされ、業界団体の業種別マニュアルを単に配布するだけでは措置義務を果たしたことになりません※4。方針文はA4で1〜2枚、次の8項目で形になります。
| # | 項目 | 書く内容 |
|---|---|---|
| 1 | 目的 | 毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨 |
| 2 | 対象 | 雇用形態・所属部署を問わず全ての労働者。派遣労働者を含むか |
| 3 | 定義 | 指針の3要素。苦情の全てが該当するわけではないこと |
| 4 | 該当しないもの | 正当な申入れ。障害を理由とする不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去の意思表明 |
| 5 | 典型的な例 | 「要求の中身」と「伝え方」。限定列挙ではないことを添える |
| 6 | 対処の内容 | 別に定める文書への参照 |
| 7 | 相談先 | 窓口の名称・連絡手段・受付時間(一次と二次) |
| 8 | 不利益取扱いの禁止 | 相談したこと等を理由に不利益な取扱いをされない旨 |
4と5の組み合わせが要です。5だけでは「クレームはすべてカスハラ」、4だけでは「これくらいは我慢するもの」と読まれます。6は分離してください。対処の内容は更新頻度が高く、方針文に埋め込むと手順を1つ変えるたびに改訂手続きが要ります。対処の内容の例は次のとおりです(限定列挙ではなく、各事業主が実態に応じた内容を定める)※2。
- 管理監督者等に直ちに報告し、その場の対応の方針について指示を仰ぐこと。
- 可能な限り労働者を一人で対応させないこと。必要に応じて管理監督者等が代わって対応すること。
- 顧客等とのやり取りを録音・録画すること(個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)等を遵守する)。
- 十分な説明を行った上でなお繰り返しの要求が続く場合には、一定の時間の経過をもって退店を求めたり、電話を切ったりすること。
- 犯罪に該当し得る言動については警察へ通報すること。
- 現場対応が困難な場合には本社・本部等へ情報共有を行い、指示を仰ぐこと。
- 法的な手続が必要な場合には弁護士へ相談すること。
周知は既存の接客マニュアルへの追記でも成立し得ます。現場がもっとも困るのは「いつ打ち切ってよいか」です。指針の条件は「十分な説明を行ったこと」「なお繰り返しの要求が続いていること」、物差しは「一定の時間の経過」。数字は「切ってよい線」ではなく「上げる線」として書くと現場が使えます。記録は、指針が事案の内容や対応経緯を記録し、個人情報の取扱いに留意して関係部門に共有し再発防止に活用することも考えられるとしています※2。
従業員が1名の店舗については、退店要求・電話の打ち切り、警察への通報、本社・本部等への情報共有等を定めておくことが考えられ、事実が確認できた場合には担当者の変更、配置転換、メンタルヘルス不調への相談対応等の配慮措置が必要とされます※4。その場の対応ができないことと、事後の配慮をしないことは別です。なお改正法は事業主に措置を義務付けるもので、新たな権利や権限を設けるものではありません。退店を求める・取引を断るといった対応の可否は従来どおり契約や施設管理権などの枠組みの中で判断します。
措置3:相談窓口をどこに置くか
2つ目の区分は「相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」で、窓口をあらかじめ定めて労働者に周知することと担当者が適切に対応できるようにすることが求められます。窓口を定めていると認められる例は、担当者をあらかじめ定めること、制度を設けること、外部の機関に委託することの3つ※2。担当者を定めていることは窓口を定めている例の一つとされており※4、専用窓口を新設しなくても形にはなります。
「適切に対応できるようにする」では対応の幅が強調されています。被害を受けた労働者が萎縮するなどして相談を躊躇する例もあること等も踏まえ、現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、該当するか否か微妙な場合であっても広く相談に対応し、適切な対応を行うこととされています。窓口の運用ルールに「該当しないので受け付けない」を作ってはいけないということです。線を引くのは受け付けたあと、事実関係を確認する段階。担当者側は、関係部門と連携できる仕組み、マニュアルに基づく対応、研修が例に挙げられています※2。
既存のパワハラ・セクハラ窓口に乗せるかは設計上の分岐点です。指針は一体的な設置も考えられるとし※2、解釈事項Q&Aはさらに、カスハラについては、他のハラスメントと異なり、事案が発生したその場ですぐに相談することや、現場の状況に精通している上司等に相談することが適切な場合もあることから、他のハラスメントの相談窓口と一体的なものとする必要はないとしています※4。現実的には一次を現場の管理監督者、二次を本社窓口とする二層構成で、方針文には両方の連絡先を書いてください。片方だけだと、上司に相談しづらい事案が行き止まりになります。
措置4:事案が起きたあとの対応と、録音・録画
3つ目の区分は「事後の迅速かつ適切な対応」で、指針は3段階を求めています※2。
事実関係の確認。認められる例は、管理監督者等がその場で確認し対応すること、相談窓口の担当者・関係部門又は専門の委員会等が相談者から確認すること、確認が困難な場合等における法第37条に基づく調停の申請その他中立な第三者機関への紛争処理の委託です。必要に応じて周囲の労働者からの聴取や録音・録画等の客観的な証拠の確認も考えられます※2。行為者が立ち去り連絡が不可能な場合にまで、行為者から確認する必要はないとされています※4。
被害者への配慮。事実が確認できた場合は速やかに、管理監督者等が代わって対応すること、被害者と行為者を引き離すこと、担当者の変更又は複数人での対応、配置転換、管理監督者又は事業場内産業保健スタッフ等によるメンタルヘルス不調への相談対応等を行うとされます。再発防止。改めて方針を周知・啓発し、必要な場合には原因や背景となった商品・サービス・接客等における問題やコミュニケーションの不足の改善を図る措置を講ずるとされ、接客等における慣行の見直しなど組織風土の見直しも考えられます。ここで「生じた事実が確認できなかった場合においても、同様の措置を講ずること」と明記されている点に注意してください※2。手順書に「確認できた場合」の分岐しか書いていないと、この記載を満たせません。
録音・録画を入れる会社は、個人情報保護法との接続を先に確認します。解釈事項Q&Aは、取得する情報が個人情報に該当する場合、利用目的をできる限り特定するとともに本人に通知又は公表する必要があり、特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱うことはできないとし、事実関係の確認に使用する場合はその旨をできる限り特定し通知又は公表する義務があるとしています(例=プライバシーポリシー等に記載し、トップページから1回程度の操作で到達できる場所へ掲載)。その場で伝える義務までは含まれませんが、カメラの設置状況等から本人が容易に認識可能といえない場合には、容易に認識可能とするための措置を講じなければならないとされています※4。
措置5・6:抑止のための措置と、併せて講ずべき措置
4つ目の区分は他のハラスメント対策には無い項目で、既存のパワハラ規程を流用すると抜けます※3。指針は、特に悪質と考えられるものへの対処の方針をあらかじめ定めて労働者に周知するとともに、当該方針において定めた対処を行うことができる体制を整備しなければならないとしています。「体制の整備」まで求められている点が特徴です。対処の例は、警察への通報、行為者への警告文の発出、法令の制限内において商品の販売・サービスの提供等をしないこと、店舗及び施設等への出入りの禁止、民事保全法(平成元年法律第91号)に基づく仮処分命令の申立て。ただし業種・業態等により必要な対応が異なる場合やサービスが途絶すると顧客等の生命や心身の健康に重大な影響が及ぶ場合等への留意も求められます※2。医療・福祉・公共交通など提供を止めにくい業種は、他業種と同じ書き方にはできません。
| 問い | 解釈事項Q&Aが示している考え方※4 |
|---|---|
| 出入り禁止を方針に定めたら、必ず講じなければならないのか | 必ず講じなければならないわけではないが、整備した体制の下で、対処の方針に基づき、措置を講じるか否かの判断をする必要がある |
| 悪質なものへの対処方針は、対処の内容とは別に作成しなければならないのか | 必ずしも別に作成する必要はなく、対処の内容を明確化し周知・啓発する際に併せて定めて周知することが可能 |
後者により作る文書は方針文と対処の内容の2つで足ります。「体制の整備」は、方針の周知に加えて関係部門間の連携等の体制を整備することが例に挙げられています※2。誰が警告文を出し、誰が警察に通報し、誰が弁護士に連絡するのか——この3点の担当を決めて書けば形になります。
最後の区分は「併せて講ずべき措置」です。1つ目は相談者等のプライバシーの保護で、必要な措置を講ずるとともにその旨を労働者に対して周知することとされ、プライバシーには性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報も含まれるとされています。2つ目は不利益取扱いの禁止。法第33条第2項、第36条第2項及び第37条第2項の規定を踏まえ、①相談をしたこと、②事実関係の確認等の措置に協力したこと、③都道府県労働局に対する相談・紛争解決の援助の求め・調停の申請を行ったこと、④調停の出頭の求めに応じたこと、を理由として解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、周知・啓発することとされています。認められる例は就業規則その他の服務規律等を定めた文書での規定で、派遣労働者も対象です※2。相談記録には機微な情報が含まれるため、社外のサービスに貼り付けてよいかの線引きは生成AIの社内ガイドラインの作り方の節で整理しています。
規程の作り方・チャネル別の備え・施行までの段取り
既存規程は統合するか別立てにするかを最初に決めてください。目安はその場での対応が発生する業務を持っているかどうかで、持っている場合は別立てのほうが現場は引けます。就業規則の改訂については、自社の労働者が取引先等に対してカスハラを行った場合の懲戒等は、既存の懲戒規定等に基づき必要な措置を講ずることが可能である場合には、必ずしも就業規則等を改正して新たに規定を設ける必要はないとされています※4。ただし「不利益取扱いをされない旨」は就業規則等での規定が認められる例のため※2、記載が無ければ書き足す必要があります。
自社が加害側になる場合も設計に入れてください。指針は、法第33条第3項の規定により、他の事業主から事実関係の確認等の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合にはこれに応ずるように努めなければならないとし、それを理由に契約を解除する等の不利益な取扱いは望ましくない、他の事業主の労働者に対するカスハラを行ってはならない旨の方針を併せて示すことが望ましいとしています※2。行為者の勤務先が自社の取引先でその業務に関連して行われた場合等には協力を求めることが考えられ、応じてもらえない場合は都道府県労働局に相談できるとされています※4。
| チャネル | 取れる手段の例 | 先に決めておくこと |
|---|---|---|
| 対面(店舗・施設) | 複数名での対応、管理監督者の交代、一定の時間の経過をもって退店を求める | 一人勤務の時間帯の応援手段 |
| 訪問(顧客の自宅等) | 業務を遂行する場所は「職場」に含まれる | 上司が不在の前提の手順。引き離す措置は事後になる |
| 電話・メール・SNS等 | 録音、一定の時間の経過をもって電話を切る、上位者への転送、記録の保存 | 録音の利用目的の通知・公表。誰が発見し、誰が打ち切るか |
訪問系は設計を分けます。「施設・サービスの利用者及びその家族」には訪問看護や訪問介護等の、顧客等の自宅等に労働者が訪問して実施するサービスの利用者及びその家族も含まれるとされています※4。訪問先では管理監督者の交代や複数名対応が使えないことが多く、対処の内容にはその場を離れる判断と、離れたあとの連絡先を書いておきます。
準備は現状把握→方針文→対処の内容→窓口の設置→全社周知の順です。最初に集める「直近で現場が困った場面」が、典型例の記述と打ち切り基準の材料になります。録音・録画を入れるならプライバシーポリシーの見直しを並行します。周知対象は所属部署や雇用形態を問わず全ての労働者です※4。施行後についても指針は、労働者や労働組合等の参画を得つつアンケート調査や意見交換等により運用状況の把握や見直しの検討に努めることが重要とし、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第18条第1項に規定する衛生委員会の活用も考えられるとしています※2。作って終わりにしない仕組みを、最初に決めておいてください。
よくある質問
改正法は令和7年法律第63号として令和7年6月11日に公布され、施行日は令和8年10月1日とされています。防止指針は令和8年厚生労働省告示第51号として令和8年2月26日に公布されています。
公表されている指針およびリーフレットには、事業主の規模による例外や猶予は示されていません。自社への適用は、所轄の都道府県労働局にご確認ください。
実務上は2本です。「方針を書いた文書」と「あらかじめ定めた対処の内容を書いた文書」。特に悪質なものへの対処の方針は、対処の内容に併せて定めて周知できます。これに相談窓口の設置と周知が加わります。
指針は一体的な設置も考えられるとしています。一方で解釈事項は、事案が発生したその場ですぐ相談することや現場の状況に精通している上司等に相談することが適切な場合もあることから、一体的なものとする必要はないとしています。
解釈事項は、方針を顧客等に周知することまでは義務付けていないとしています。ただし指針には、顧客等への周知・啓発も被害の防止に効果的と考えられる旨が記載されています。義務ではないが効果的、という位置づけです。
必要です。「顧客等」には取引の相手方や施設の利用者なども含まれるため、顧客対応が発生しない場合でも措置を講じる必要があり、周知・啓発は所属部署や雇用形態を問わず全ての労働者に対して行う必要があるとされています。
解釈事項は、自社の労働者が取引先等に対して行った場合の懲戒等について、既存の懲戒規定等で対応可能な場合には必ずしも改正の必要はないとしています。一方、相談等を理由として不利益な取扱いをされない旨は、就業規則その他の服務規律等を定めた文書での規定が認められる例に挙げられています。
解釈事項は、取得した個人情報を事実関係の確認に使用する場合は、利用目的としてその旨をできる限り特定し、通知又は公表する義務があるとしています。公表方法の例は、プライバシーポリシー等に記載しトップページから1回程度の操作で到達できる場所へ掲載することです。
解釈事項は、十分な説明を行った上でなお要求が続く場合の退店要求・電話の打ち切り、警察への通報、本社・本部等への情報共有等を定めておくことが考えられるとしています。事実が確認できた場合の配慮措置は、その場の対応の可否とは別に必要です。
解釈事項は、事実関係の確認を迅速かつ正確に行うことは事業主の義務であり、都道府県労働局が個々の言動の該当性を判断することはないとしています。制度全般の相談は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)で受け付けられています。
指針は、労働者派遣法第47条の4の規定により派遣先も派遣労働者を雇用する事業主とみなされるとし、派遣先も同様に配慮および措置を講ずることが必要としています。不利益取扱いの禁止も派遣労働者が対象です。
解釈事項は、単に業種別マニュアルを配布するだけでは措置義務を果たしたことにはならないとしています。それを参考に自社の実情に応じた調整を行い、方針の明確化や対処の内容の策定を行って周知すれば、果たしたことになります。
参考文献
- ※1 職場におけるハラスメントの防止のために 厚生労働省(2026.08.02確認)
- ※2 事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号) 厚生労働省(2026.08.02確認)
- ※3 令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます(リーフレット・詳細版) 厚生労働省(2026.08.02確認)
- ※4 ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について(令和8年4月24日) 厚生労働省雇用環境・均等局雇用機会均等課(2026.08.02確認)
- ※5 令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます(リーフレット・簡易版) 厚生労働省(2026.08.02確認)
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