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職場の熱中症対策とSDGs — 義務になった措置を目標につなぐ

最終更新日 2026.08.05

監修:株式会社UNPLACED

熱中症対策は「夏のあいだの気をつけごと」から、法令上の義務になりました。対象になる作業には線引きがあり、やるべきことも条文上は多くありません。同時にそれは、気候変動への適応と労働安全という、SDGsが正面から扱っている論点でもあります。義務として何をするのか、そこで作った記録をどう自社の取り組みとして説明するのか。実務の順序で、両方を一度に整理します。

結論:義務化された3つの措置は、そのままSDGsの説明材料になります

職場の熱中症対策は、2025年6月1日に施行された改正労働安全衛生規則(以下「安衛則」)により、一定の作業について事業者の義務になりました※1。努力目標ではありません。

やるべきことは、条文上は多くありません。

やること中身根拠
報告できる状態をつくる自覚症状のある人/異変に気づいた人が、誰にどう報告するかを決めて知らせる安衛則第612条の2第1項
悪化させない手順を決める作業から離す・体を冷やす・必要なら受診させる、という措置の内容と手順を作って知らせる同条第2項
作業者に周知する掲示・メール・文書・朝礼などで、確実に伝える両項に共通

そして、ここで作った記録はそのままSDGsの説明材料になります。熱中症対策は、目標8(働きがいも経済成長も)の「安全な労働環境」、目標13(気候変動に具体的な対策を)の「適応」、目標3(すべての人に健康と福祉を)の3つに同時に触れる、めずらしく分かりやすい取り組みだからです※6

この記事で扱うこと
義務の範囲と線引き、報告体制と手順の作り方、暑さ指数(WBGT)の見方、SDGsの目標との対応づけ、記録と開示の形。労働時間そのものの管理や、就業規則の作成手続きは扱いません。

順に見ていきます。

いま職場の熱中症で何が起きているのか

まず現状です。厚生労働省は毎年、労働者死傷病報告をもとに「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」を公表しています※3

2025年(令和7年)の確定値では、職場での熱中症による死傷者数(死亡と休業4日以上の合計)は1,803人でした。2024年に比べて約43%の増加で、統計を取り始めた2005年以降で最も多い数字とされています。一方で死亡者数は19人で、2024年の31人から約39%減少しました※3

死傷者数うち死亡者数
2021年561人20人
2022年827人30人
2023年1,106人31人
2024年1,257人31人
2025年1,803人19人

この2つの動きは、別々に読む必要があります。死傷者数の増加については、気象庁による2025年夏(6〜8月)の平均気温偏差が+2.36℃と統計開始以来最高だったことが一因と推測されています。死亡者数の減少については、同年の安衛則改正により重篤化防止の措置が義務づけられたことで、対策が一段と進んだと考えられる、という整理がなされています※3

つまり、暑さそのものは避けられないが、重症化は避けられる——これが数字から読み取れることです。義務化された措置は、まさにこの「重症化させない」ところを狙っています。

数字が示す4つの傾向

統計をもう少し細かく見ると、自社に当てはめて考えるための手がかりが出てきます。2021年から2025年の5年間で発生した死傷者5,554人・死亡者131人のデータからは、次の傾向が読み取れます※3

傾向実務への含み
業種死傷者は製造業1,063人・建設業1,038人が多く、いずれの年もこの2業種で約4割。死亡者は建設業52人・警備業18人が多い屋内の製造業も他人事ではない
死傷者の約77%が7月・8月に集中。死亡者は約85%がこの2か月備えは6月までに終える
時間帯午前中と午後3時前後に多いが、日中のどの時間帯でも発生。死亡は午後に多い「昼だけ気をつける」では足りない
年齢死傷者は50歳代以上が約52%。死亡者は50歳代以上が約65%年齢構成が高い職場ほど備えが要る

もうひとつ、見落としやすい記載があります。気温が下がった17時台や18時台以降に死亡に至るケースが少なからずみられ、そのなかには日中は重篤な症状がなかったのに、作業終了後や帰宅後に体調が悪化した事案が含まれている、という指摘です※3

「その場では回復したように見えた」で終わらせないこと。これが後述する手順づくりの要点になります。

死亡事例から見える、抜けやすいところ

2025年の死亡災害19件について、厚生労働省は概要を公表しています。被災場所は屋外が15件、屋内が4件でした※3

注目したいのは、同じ資料に載っている次の内訳です。

  • 報告体制の整備・周知(第1項の措置)の実施を確認できなかったことが明らかな事例が2件。
  • 措置手順の作成・周知(第2項の措置)の実施を確認できなかったことが明らかな事例が3件。
  • 熱中症予防のための労働衛生教育の実施を確認できなかった事例が9件。
  • 糖尿病、高血圧症など熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病や所見を有していることが明らかな事例が9件。

ここから見えるのは、「暑さ対策の設備」より先に抜けているのは、伝達と教育であるということです。冷房やファン付き作業服があっても、異変に気づいた人がどこへ連絡すればよいか決まっていなければ、対応は遅れます。

また、持病の有無は個人情報にあたるため、把握と配慮の方法には慎重さが要ります。ここは産業医や健康診断の結果を扱う担当を通じて、医師等の意見を踏まえて進めるのが基本です。厚生労働省の「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」でも、この点は重点事項の一つに挙げられています※2

職場の熱中症対策を表すイメージ。紙でつくった同心円の中心に地球儀が置かれ、円の上に小さな球が点在する造形

2025年6月1日から義務になったこと

ここからが本題です。改正省令(令和7年厚生労働省令第57号)は2025年4月15日に公布され、同年6月1日から施行されました。これを受けた通達(基発0520第6号)に、趣旨と細部の解釈が示されています※1

改正の趣旨として、通達には次の説明があります。熱中症による死亡災害の原因の多くは初期症状の放置、対応の遅れによることから、重症化を防止し死亡災害に至らせないよう、疑いのある者の早期発見と重篤化防止のために事業者が講ずべき措置について新たな規定を設ける、というものです※1

ここは読み違えやすいところなので、はっきりさせておきます。今回新設された第612条の2は、「暑くならないようにする」規定ではなく、「倒れた人を重症にしない」規定です。作業環境の改善や休憩の確保は従来からの予防対策の話であり、今回の義務はその手前で人が倒れたときの初動を確実にするためのものです。両方が要ります。

対象になる作業の線引き

すべての職場が対象になるわけではありません。線引きは、場所と時間の2つで決まります※1

要素基準
場所(暑熱な場所)湿球黒球温度(WBGT)が28度以上、または気温が31度以上の場所
時間その場所で、継続して1時間以上、または1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれる作業

この2つを満たす作業が「熱中症を生ずるおそれのある作業」にあたります。押さえておきたい点が4つあります。

  • 屋内も対象です。「暑熱な場所」は事業場内外の特定の作業場だけを指すものではありません。空調のない倉庫や工場も、基準を満たせば対象になります。
  • 出張先や移動中も含みます。出張先で作業を行う場合、複数の場所を移動して作業する場合、作業場所から作業場所への移動時等も含む趣旨とされています。
  • 非定常作業・臨時の作業も対象です。いつもの作業でなくても、条件を満たすことが見込まれるなら含まれます。
  • 「作業者」は労働者に限りません。労働者と同一の場所で当該作業に従事する労働者以外の者も含むものとされています。

なお、この条件に該当しない場合であっても、作業強度や着衣の状況によっては熱中症のリスクが高まるため、事業者は改正省令に準じた対応を行うよう努めること、とされています※1。線引きの外側だから何もしなくてよい、という読み方はできません。

暑さ指数(WBGT)をどう把握するか

暑熱な場所に該当するかどうかは、原則として作業が行われる場所でWBGTまたは気温を実測して判断する必要があります。ただし、通風のよい屋外作業については、天気予報(スマートフォン等のアプリケーションによるものを含む)や、環境省が運営する熱中症予防情報サイト等の活用によって判断可能な場合には、これらを用いても差し支えないとされています※1

WBGTは気温・湿度・輻射熱をあわせた指標で、環境省のサイトでは次のように段階が示されています※4

WBGT区分目安となる対応
21未満ほぼ安全適時水分補給
21〜25未満注意積極的に水分補給
25〜28未満警戒積極的に休息をとる
28〜31未満厳重警戒激しい運動は中止
31以上危険運動は原則中止

義務の入口である「28度以上」は、この表の厳重警戒にあたります。感覚で判断できる水準ではないので、対象になりうる作業場にはWBGT計を置くのが確実です。数千円台のものから流通しており、測っておけば「対象外だった」ことの説明もできます。

あわせて、環境省の熱中症警戒アラートも把握しておくと運用が楽になります。警戒情報は、府県予報区等内のいずれかの地点で翌日または当日の日最高WBGTが33に達すると予測される場合に、特別警戒情報は、都道府県内の全地点で翌日の日最高WBGTが35に達する場合等に発表されるとされています※4。前日に分かるので、作業計画の組み替えに使えます。

措置1:報告できる状態をつくる(第1項)

1つ目の義務は、報告体制の整備と周知です。条文の構造は単純で、次の2つの場合に報告させる体制をあらかじめ整え、作業者に周知することが求められます※1

  • 作業に従事する者が、熱中症の自覚症状を有する場合
  • 作業に従事する者が、他の者に熱中症が生じた疑いがあることを発見した場合

体制の整備には、報告を受ける責任者等の連絡先と連絡方法を定めて明示し、作業中は随時報告を受けられる状態を保つことが含まれるとされています。通達では、電話等での報告を受けるだけでなく、早期発見の観点から次のような方法が推奨されています※1

方法中身備考
巡視責任者等が作業場所を見て回る本人が申告できない状態を拾える
バディ制2人以上が作業中に互いの健康状態を確認する追加費用がかからない
ウェアラブル端末装着した機器でリスクを管理する単独では状態を正確に把握できるとは限らず、他の方法との組合せが望ましい
定期連絡責任者と作業者の双方向で定期的に連絡する単独作業のときに効く

整備の時期は、対象作業が行われることが想定される作業日の作業開始前まで。ただし夏季の屋外作業のように一定期間の暑熱作業が明らかな場合は、十分な余裕をもって体制を整え、従事が見込まれる者に周知するよう努めることとされています。同一の従事者で連続して行われ、既に整備と周知が済んでいる場合は、作業日ごとに重ねて実施する必要はありません※1

措置2:悪化を防ぐ手順をつくる(第2項)

2つ目の義務は、作業場ごとに措置の内容と実施手順を定め、周知することです。条文が例示している措置は次の3つで、これに加えて症状の悪化を防止するために必要な措置が対象になります※1

1. 作業からの離脱まず作業を止める
2. 身体の冷却体外・体内から冷やす
3. 必要に応じ受診医師の診察または処置

「身体の冷却」として通達が挙げているのは、作業着を脱がせて水をかけること、アイスバスに入れること、十分に涼しい休憩所に避難させること、ミストファンを当てることといった体外からの冷却と、アイススラリー(流動性の氷状飲料)を摂取させるといった体内からの冷却です※1

手順書に必ず入れておきたいのが、次の2点です。

  • 一人にしない。この間に容態が急変する場合があるため、疑いのある作業者を一人きりにせず、他の作業者等が見守ることが重要とされています。
  • 迷ったら相談する。判断に迷う場合には、放置したり措置を躊躇して先送りにせず、#7119等を活用するなど専門機関や医療機関に相談し、速やかに専門家の指示を仰ぐことが望ましいとされています。

また、あらかじめ緊急連絡網と搬送先となる医療機関の連絡先(所在地を含む)を定めた場合は、手順書にも記載しておくことが望ましいとされています。手順を作る作業の実質は、この連絡先を調べて1枚にまとめることだと考えて差し支えありません。

「回復した」の判断を慎重にする

前述のとおり、熱中症は帰宅後も含め、時間が経ってから症状が悪化することがあります。このため通達は、事業場における回復の判断は慎重に行うことが重要であるとしたうえで、次の準備を求めています※1

  • 回復後の体調急変等により症状が悪化する場合は直ちに医療機関を受診する必要があることを、本人に十分理解させる。
  • 体調急変時の連絡体制や対応(具合が悪くなったら本人や家族が救急搬送を要請する、事業者側から様子を伺うための連絡を取る等)を、事業場の実態を踏まえてあらかじめ定めておく。

この項目は、手順書に1行入れるだけで済みます。「当日中に管理者から本人へ連絡を入れる」と決めておくだけで、実務は変わります。統計上、17時台以降に死亡に至るケースが少なからずみられることを踏まえると、費用対効果がきわめて高い一行です※3

周知の方法と、混在作業での義務の及び方

周知は、報告先等が作業者に確実に伝わることが必要です。方法としては、事業場の見やすい箇所への掲示、メールの送付、文書の配布のほか、朝礼における伝達等の口頭によることがあり、原則いずれでも差し支えないとされています。ただし、伝達内容が複雑な場合や朝礼に参加しない者がいる場合も想定されるため、必要に応じて複数の手段を組み合わせて行うこととされています※1

記録については、現場で周知した結果の保存までは法令では求めていない、と明記されています。ただし労働基準監督署による確認に際しては、事業者として適切に対応することが求められるとされています※1。法令上の保存義務はないが、説明できる状態にはしておく、というのが実務上の落としどころになります。

もう一つ、建設現場のように複数の事業者が同一の作業場で作業を行う混在作業では、義務の及び方に注意が要ります。第612条の2は労働安全衛生法第22条に基づき個々の事業者に措置義務を課すもので、混在作業の場合は当該作業場に関わる元方事業者および関係請負人の事業者のいずれにも措置義務が生じます。措置が行われていなかった場合には元方事業者のみに違反が生ずるのではなく、当該作業場に関わるすべての事業者に同条違反が生ずるとされています※1

この場合の周知の方法としては、各事業者が共同して1つの緊急連絡先を定め、これを作業者の見やすい場所に掲示すること、メールでの送付、文書の配布等が考えられるとされています※1。元請が用意してくれているはず、という前提は通用しません。

職場の熱中症対策を表すイメージ。フローチャートを印刷した用紙に、定規を当ててペンで書き込んでいる手元

熱中症対策がSDGsのどこに当たるのか

ここからが、もう一つの主題です。SDGs(持続可能な開発目標)は、2015年に採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に掲げられた17の目標を指します※6

熱中症対策は、このうち3つに同時に関わります。関係が薄い順ではなく、説明のしやすい順に並べると次のとおりです。

目標日本語表記熱中症対策との関係
目標8働きがいも経済成長も安全な労働環境の確保。義務化された措置がそのまま該当する
目標13気候変動に具体的な対策を気候変動への「適応」。排出削減とは別の側面
目標3すべての人に健康と福祉を予防可能な健康被害を減らす

順に、なぜそう言えるのかを見ていきます。ここを言葉にできると、対外的な説明が一気に楽になります。

目標8 — 安全な労働環境という論点

目標8「働きがいも経済成長も」は、経済成長と雇用の話だと受け取られがちですが、労働者の権利保護と、安全・安心な労働環境の促進を含む目標です※6。熱中症は、この中でもっとも直接的に当てはまるテーマの一つです。

理由は3つあります。

  • 予防可能である。発生の条件が気温・湿度・作業時間という測れる要素で説明でき、対策と結果の関係が追いやすい。
  • 数えられる。死傷者数という公的な統計があり、自社でも発生件数・ヒヤリハット件数として記録できる。
  • 誰にでも関係する。正社員だけでなく、同じ場所で作業する外部の人にも及ぶ。前述のとおり、義務の対象となる「作業者」は労働者に限られません※1

サステナビリティの取り組みは抽象的な方針だけになりがちですが、熱中症対策は「何をしたか」と「その結果どうだったか」を同じ単位で書ける数少ない領域です。

目標13 — 「緩和」ではなく「適応」の側

目標13「気候変動に具体的な対策を」と聞くと、多くの企業がまず思い浮かべるのは排出量の削減、つまり緩和(ミティゲーション)です。しかし気候変動対策にはもう一つ、すでに起きている変化による被害を避ける適応(アダプテーション)という側面があります。

熱中症対策は、この適応の側にあたります。前掲のとおり、2025年夏の平均気温偏差は+2.36℃と統計開始以来最高で、死傷者数の増加の一因と推測されています※3。改正省令の趣旨にも、近年の気候変動の影響から夏期において気温の高い日が続くなかで職場の熱中症災害が増加傾向にある、という認識が示されています※1

説明のときに効く整理
緩和=排出を減らして将来の気温上昇を抑える取り組み。適応=すでに起きている気温上昇による被害を減らす取り組み。熱中症対策は後者にあたり、排出量の多寡にかかわらず、どの業種でも取り組めるのが特徴です。

排出量の削減は、業種によって取り組める幅がまったく違います。一方で適応は、屋外作業のある会社にも、空調のない倉庫を持つ会社にも、等しく取り組む余地があります。「うちは製造業ではないから環境の話は書けない」と考えている会社ほど、ここは書けます。

目標3 — 健康と福祉、そして持病への配慮

目標3「すべての人に健康と福祉を」との関係は、説明としてはもっとも素直です。熱中症は予防可能な健康被害であり、その発生を減らす取り組みは目標3に位置づけられます※6

ただし、ここで一段踏み込めると内容が濃くなります。前述のとおり、2025年の死亡事例19件のうち9件では、糖尿病、高血圧症など熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病や所見を有していることが明らかでした※3

つまり、リスクは全員に一様ではありません。厚生労働省のキャンペーンでも、こうした疾病を有する者に対して医師等の意見を踏まえた配慮を行うことが重点事項に挙げられています※2。健康診断の結果を扱う立場の担当者と産業医が関わる領域であり、現場任せにはできません。

個人の健康情報の取扱いには慎重さが必要ですが、「配慮が必要な人がいる前提で、作業の割り当てを考える仕組みがあるか」という問いには答えられるはずです。ここまで書けると、目標3への言及は形式的なものではなくなります。

国の枠組みも「適応」に移っている

企業側の話をする前に、制度の側の動きも押さえておきます。熱中症対策は、労働安全衛生の分野だけでなく、環境政策の側でも位置づけが変わりました。

改正気候変動適応法は、令和5年(2023年)5月12日に公布され、令和6年(2024年)4月1日に全面施行されました。この改正で措置されたのは、次の3点です※5

  • 熱中症対策実行計画の法定計画への格上げ。閣議決定に基づく計画から、法律に根拠を持つ計画になりました。
  • 熱中症警戒情報の法定化と、熱中症特別警戒情報の創設。アラートが法律に基づく制度として位置づけられました。
  • 市町村長による指定暑熱避難施設(クーリングシェルター)および熱中症対策普及団体の指定の制度。自治体が避難先を指定し、開放する仕組みができました。

企業から見ると、これは2つの意味を持ちます。1つは、アラートが公的な判断材料になったこと。作業中止や時間帯変更の根拠として、社内で説明しやすくなりました。もう1つは、自治体との接点ができたことです。指定暑熱避難施設は市町村長が指定するため、地域の事業者としての関わり方が生まれます。

労働安全衛生(厚生労働省)と気候変動適応(環境省)の両方から同じ課題に規定が入った、というのが2024年から2025年にかけての変化です。SDGsの文脈で書くとき、この2つを並べられると説得力が違います。

職場の熱中症対策を表すイメージ。タブレットに表示したカードのフロー図で、チェックの付いた項目を指で押している場面

実務への落とし込み — 6月までに終える5工程

ここまでを、着手の順序に組み直します。夏に入ってから始めるのでは間に合いません。5月中に一巡させるのが現実的です。

工程やること成果物
1. 対象を洗い出すWBGT28度以上または気温31度以上になりうる場所を挙げ、そこでの作業時間を確認する対象作業の一覧
2. 測る手段を決めるWBGT計を置くか、屋外の通風のよい作業は予報・環境省サイトで判断するかを決める測定・確認の担当と方法
3. 報告先を決める責任者と代理の連絡先を決め、掲示物にする掲示物(1枚)
4. 手順を作る離脱・冷却・受診の手順、緊急連絡網、搬送先医療機関の連絡先と所在地をまとめる手順書(1〜2枚)
5. 周知する掲示+朝礼+文書配布など複数手段で伝える。教育の機会も設ける周知の記録

厚生労働省は「職場における熱中症予防情報」として、ガイドラインやパンフレット、e-learningの講習動画などを公開しています※2。ゼロから作る必要はありません。通達にも掲示例(別添1)と手順例(別添2)が付いており、これらを参考にしてよいとされています※1。ただし、必ずしもこれらによらず、作業場所および作業内容の実態を踏まえて事業場独自の手順等を定めて差し支えないとされています。

あわせて、教育の位置づけも確認しておいてください。熱中症を生ずるおそれのある作業が行われる場合、雇入れ時等の安全衛生教育(労働安全衛生法第59条第1項)および職長等に対する安全衛生教育(同法第60条)で教育すべき事項とされている「事故時等や異常時における措置」には、今回の改正内容も含め熱中症が疑われる者に対する応急措置が含まれるとされています※1。既存の教育の中身を見直す必要がある、ということです。

記録を「開示できる形」で残す

ここが、義務対応とSDGsの説明をつなぐ結節点です。前述のとおり、周知結果の記録保存までは法令上求められていません※1。しかし記録がなければ、労働基準監督署にも、取引先にも、採用候補者にも説明できません

残す価値が高いのは、次の5つです。多くありません。

記録使い道
WBGTの測定値(日付・場所・値)対象作業の判断根拠。対象外だったことの説明にも使える
報告体制と手順の周知日・方法・対象者監督署の確認への対応。SDGsの記載根拠
教育の実施日と内容雇入れ時教育・職長教育との対応づけ
発生件数(受診に至らなかった事案を含む)年次の比較。改善の効果を示す唯一の数字
作業計画を変更した日と理由アラート発表時の判断が機能したかの検証

4つ目の「受診に至らなかった事案を含む」は、意識して足してください。休業4日以上に至らなかった事案は労働者死傷病報告の対象外ですが、体制が機能した証拠はむしろこちら側に出ます。「早期に発見して作業から離脱させた件数」は、対策が効いていることを示す積極的な数字です。

これらをサステナビリティ関連の記載に載せる場合、書くのは方針ではなく事実です。「安全な職場づくりに努めます」ではなく、「対象作業を◯か所で特定し、報告体制と手順を◯月◯日に周知した。年間の発生件数は◯件で、うち受診に至った事案は◯件」と書けるかどうか。後者は検証できる情報であり、前者は検証できません。環境や社会に関する表示の考え方については、環境配慮をうたう表示のルールもあわせてご覧ください。

やりがちな失敗

取り組みが空回りするときの型は、だいたい決まっています。

失敗1:屋外作業だけを対象にする。統計では、2025年の死亡事例19件のうち4件は屋内で発生しています※3。また5年間の死傷者数では製造業が最多です。空調のない工場・倉庫・厨房は、屋外と同等以上に条件が厳しくなることがあります。

失敗2:夏になってから体制を作る。死傷者の約77%は7月と8月に集中しています※3。6月に体制を整え始めると、周知が行き渡る前にピークが来ます。5月中に一巡させてください。

失敗3:手順書を作って終わりにする。作った手順が現場のロッカーに入っているだけでは、倒れた人の前で使えません。掲示物として貼るところまでが工程です。通達も、報告先については掲示例を参考にすることを示しています※1

失敗4:本人の申告に頼りきる。自覚症状があっても言い出せない、あるいは判断力が落ちて言えない、という状態が起こりえます。だからこそ、巡視やバディ制のような周囲が気づく仕組みが推奨されています※1

失敗5:SDGsの記載を別部署で書く。安全衛生の担当が作った記録と、対外的な文書を書く担当が見ている情報が別になっていると、内容が薄くなります。同じ記録を両方で使う前提で残してください。

まとめ:義務と目標を二重に管理しない

ここまでの内容を、担当者向けに整理します。

問い答え
いつから義務か2025年6月1日(改正労働安全衛生規則の施行日)
対象はWBGT28度以上または気温31度以上の場所で、継続1時間以上または1日4時間超が見込まれる作業
何をするか①報告体制の整備と周知 ②離脱・冷却・受診の手順作成と周知
誰に義務があるか個々の事業者。混在作業では元方・関係請負人のいずれにも
SDGsのどこか目標8(安全な労働環境)・目標13(気候変動への適応)・目標3(健康)

強調しておきたいのは、義務対応とSDGsの取り組みを、別々の作業にしないことです。安全衛生のために作った掲示物・手順書・記録は、そのまま対外的な説明の材料になります。逆に、対外的な文書のためだけに作った方針は、現場では使われません。

もう一点。熱中症対策は、サステナビリティの取り組みとしては始めやすさが際立っています。設備投資が要る施策と違い、最初の一歩は「責任者の連絡先を決めて貼る」ことです。費用はほとんどかからず、効果は人命に直結し、記録は数字で残る。この3つが揃う施策は多くありません。

気候の変化は、当面続くと見込まれています。2025年夏の平均気温偏差が統計開始以来最高だったという事実は※3、来年また同じ準備をすることを意味します。毎年ゼロから作らずに済む形——掲示物のひな形、連絡先の一覧、周知の記録様式——を今年のうちに作っておくことが、いちばん確実な備えになります。

社内ルールを決めて現場に届けるところまでの進め方は在宅勤務規程で決めることカスタマーハラスメント対策の義務化でも扱っています。方針を調達や取引先の基準にまで広げる話はサステナブル調達と企業の環境対応を参照してください。

よくある質問

2025年6月1日に施行された改正労働安全衛生規則により、一定の作業について事業者の義務になりました。改正省令は2025年4月15日に公布されています。新設された第612条の2は、熱中症の疑いがある人を早期に発見し、重篤化を防ぐための措置を定めたものです。

湿球黒球温度(WBGT)が28度以上、または気温が31度以上の場所で、継続して1時間以上、または1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれる作業が対象とされています。屋内も含まれ、出張先や作業場所間の移動時、非定常作業・臨時の作業も対象になりえます。

2つです。1つは、自覚症状のある人と異変に気づいた人が報告するための体制をあらかじめ整え、作業者に周知すること。もう1つは、作業からの離脱・身体の冷却・必要に応じた受診といった措置の内容と実施手順を作業場ごとに定め、周知することです。

空調が効いた執務室は、通常は基準に達しません。ただし判断は場所ごとで、空調のない倉庫・書庫・厨房・屋上での作業などは条件を満たす場合があります。基準に該当しない場合でも、作業強度や着衣の状況によってはリスクが高まるため、改正省令に準じた対応に努めることとされています。

暑熱な場所に該当するかは、原則として作業場所で実測して判断する必要があるとされています。ただし通風のよい屋外作業については、天気予報や環境省の熱中症予防情報サイト等の活用で判断可能な場合は、それらを用いても差し支えないとされています。

同一の作業場で複数の事業者が作業を行う混在作業では、元方事業者と関係請負人の事業者のいずれにも措置義務が生じるとされています。措置が行われていなかった場合、元方事業者だけでなく、その作業場に関わるすべての事業者に違反が生ずるとされています。

現場で周知した結果の記録の保存までは、法令では求められていません。ただし労働基準監督署による確認に際しては、事業者として適切に対応することが求められるとされています。実務上は、周知した日・方法・対象者を残しておくのが安全です。

目標8(働きがいも経済成長も)の安全な労働環境、目標13(気候変動に具体的な対策を)の適応、目標3(すべての人に健康と福祉を)の3つに関わります。特に目標13では、排出削減を指す「緩和」ではなく、すでに起きている気温上昇による被害を減らす「適応」の側に位置づけられます。

方針より事実を書いてください。対象作業を何か所特定したか、報告体制と手順をいつ周知したか、年間の発生件数はいくつか、といった検証できる情報です。受診に至らなかった事案の件数も含めると、体制が機能していることを示す材料になります。

回復の判断は慎重に行うことが重要とされています。熱中症は帰宅後も含め時間が経ってから悪化することがあるため、体調急変時の連絡体制や対応をあらかじめ定めておくことが求められています。統計上も、作業終了後や帰宅後に悪化した事案が含まれることが指摘されています。

参考文献

  1. ※1 労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について(基発0520第6号・令和7年5月20日) 厚生労働省(2026.08.05確認)
  2. ※2 職場における熱中症予防情報 厚生労働省(2026.08.05確認)
  3. ※3 職場における熱中症による死傷災害の発生状況 厚生労働省(2026.08.05確認)
  4. ※4 熱中症予防情報サイト(暑さ指数・熱中症警戒アラート) 環境省(2026.08.05確認)
  5. ※5 改正気候変動適応法 環境省(2026.08.05確認)
  6. ※6 2030アジェンダ(持続可能な開発のための2030アジェンダ) 国連広報センター(2026.08.05確認)

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株式会社UNPLACED

「場所にとらわれず、居場所をつくる。」を理念に、企業向けのAI基礎研修・AIコンサルティング、ジュート由来の生分解性プラスチック「ソナリ」、ワークマネジメントサービス「OginAI」を提供しています。人手不足・DX・環境対応という経営課題に向き合う企業と伴走します。

働き方・労務

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