AIで仕事が早く終わるようになった。ではその人を、どう評価すればよいのか。既存の評価表は処理した量で組まれていることが多く、そのままでは、同じ仕事を半分の時間で終えても評価は変わりません。かといって削減時間を目標値にすると、担当業務によって達成しやすさが決まってしまいます。制度の基本に立ち返り、どこに何を足せば筋が通るのかを、評価項目の文例まで含めて整理します。
結論:時間短縮そのものではなく「浮いた時間の使い道」を評価します
生成AIを使って業務が早く終わるようになったとき、多くの会社でまず起きるのは評価に反映できないという問題です。既存の評価表は、たいてい「担当した件数」「対応した金額」「納期を守ったか」といった項目で組まれているため、同じ仕事を半分の時間で終えても、評価上は何も変わりません。
結論から書きます。AIによる効率化を評価に落とし込むときは、次の3階層に分けて入れるのが確実です。
| 階層 | 何を見るか | 例 |
|---|---|---|
| 行動評価 | やり方を変えたか | 手順を見直した、他の人が使える形にして共有した |
| 成果評価 | 浮いた時間が何に向かったか | 企画・顧客対応・品質確認・後進の育成に充てた |
| 能力評価 | 扱える範囲が広がったか | 指示の設計、出力の検証、任せる範囲の判断ができる |
逆に、入れてはいけないものもはっきりしています。削減時間そのものを目標値にすること、AIの利用回数を測ること、この2つです。理由は後述しますが、いずれも短期間で制度を壊します。
人事評価制度の基本構造、AIによる効率化が既存の評価に乗らない理由、3階層への落とし込み、評価項目の文例、目標設定の書き方、評価者の準備。賃金テーブルの設計や、等級制度そのものの作り替えは扱いません。
まず、制度の基本から確認します。ここが曖昧なままだと、AIの話を足しても筋が通りません。
人事評価制度とは何か
人事評価制度とは、従業員の仕事ぶりを一定の基準で確認し、その結果を処遇や育成に結びつける仕組みを指します。呼び方は会社によって人事考課制度、業績評価制度などさまざまですが、指しているものは概ね同じです。
制度と呼べるかどうかの分かれ目は、次の4つが決まっているかどうかにあります。
- 何を見るか(評価項目)。成果、行動、能力のうち、何をどの比重で見るのか。
- どの物差しで見るか(評価基準)。各項目について、どの状態がどの段階にあたるのか。
- 誰が見るか(評価者)。一次評価者・二次評価者と、その調整の手順。
- 結果を何に使うか(処遇との接続)。昇給、賞与、昇格、配置、育成計画のどれに、どう反映するのか。
このうち1つでも欠けていると、運用は続きません。とくに4つ目が曖昧なまま「評価だけする」状態になると、評価される側にとって手間だけが残ります。
運用の流れは、多くの会社で次の順序をとります。
この流れのどこに手を入れるかで、必要な作業量が大きく変わります。期首の目標設定だけを変えるなら、制度改定の手続きは不要な場合が多い——これは後で効いてくる論点なので覚えておいてください。
3つの評価軸 — 能力・行動・成果
評価項目は、大きく3種類に分かれます。多くの制度は、この3つを組み合わせて作られています。
| 軸 | 見るもの | 測りやすさ | 向く対象 |
|---|---|---|---|
| 能力評価 | 職務を遂行するための知識・技能 | 時点では測りにくい | 等級・昇格の判断 |
| 行動評価 | 実際にとった行動・仕事の進め方 | 観察できれば測れる | 育成・日々の指導 |
| 成果評価 | 期間内に出した結果 | 数字にしやすい | 賞与・業績連動 |
3つのうち、AIの話がもっとも乗せやすいのは行動評価です。能力は身についたかどうかの判断に時間がかかり、成果は外部要因の影響を受けます。それに対して行動は、期の途中でも観察でき、本人にも説明しやすいためです。
ただし、行動評価だけに寄せると「やっている感」の評価になります。だからこそ、冒頭に挙げた3階層のように成果の側にも受け皿を作る必要があります。
評価が担う3つの機能
人事評価は、処遇を決めるためだけのものではありません。実務上は3つの機能を持っています。
| 機能 | 中身 | これが弱いと |
|---|---|---|
| 処遇の決定 | 昇給・賞与・昇格の根拠にする | 基準が不透明だという不満が出る |
| 育成 | できていること/不足していることを本人に返す | 評価が結果通知だけになる |
| 意思疎通 | 会社が何を重視しているかを伝える | 方針が現場に伝わらない |
AIの活用を評価に入れる話は、実は3つ目の意思疎通の機能を使っています。評価項目に入れるという行為自体が、「会社はこれを重視している」という最も強いメッセージになるからです。
研修を実施しても現場が動かない、という相談は少なくありませんが、その多くは評価表に載っていないことが原因です。評価されないことに時間を割く人は多くありません。逆に言えば、評価項目に1行入れることは、研修を1回追加するより効く場合があります。
評価がぶれる原因 — 評価エラーの型
制度を設計する前に、押さえておきたいことがあります。人が人を評価する以上、判断には決まった型のゆがみが生じます。人事の分野では評価エラーと呼ばれ、代表的なものは次の5つです。
| 型 | 起きること | AI活用の評価で出やすい形 |
|---|---|---|
| ハロー効果 | 目立つ一点の印象で、他の項目まで同じ方向に引きずられる | 新しいツールに詳しい人が、全項目で高く評価される |
| 中心化傾向 | 差をつけるのを避け、全員が中央の段階に寄る | 判断がつかない新項目ほど、全員「標準」になる |
| 寛大化傾向 | 全体的に甘くなる | 取り組み自体を奨励したいという意識が働く |
| 期末効果 | 評価直前の出来事に引っ張られる | 期末に共有された1件だけで判断される |
| 対比誤差 | 評価者自身の得意・不得意を基準にしてしまう | 評価者がAIに詳しいと厳しく、不慣れだと甘くなる |
新しい評価項目を足すとき、この5つはいずれも起きやすくなります。基準が新しく、評価者の中に判断の蓄積がないためです。
対処は3つあります。着眼点を観察できる行動で書くこと(印象で判断させない)、期の途中で記録を残すこと(期末効果を抑える)、評価者間で具体例を突き合わせること(対比誤差と中心化を減らす)。いずれも後述する設計の中に組み込みます。
公的な物差しがある — 職業能力評価基準
評価基準をゼロから作る必要はありません。厚生労働省は「職業能力評価基準」を整備しています。これは、仕事をこなすために必要な「知識」と「技術・技能」に加えて、「成果につながる職務行動例(職務遂行能力)」を、業種別、職種・職務別に整理したものです※1。
平成14年度から整備が進められており、現在は56業種が対応しているとされています。人材育成や採用、人事評価、さらには検定試験の「基準書」として活用できるものと位置づけられています※1。
使えるツールも公開されています。
- キャリアマップ。その業種でどのようにキャリアが形成されるかを示したもの。
- 職業能力評価シート。現在の能力レベルを把握・評価するためのシート。
- 導入・活用マニュアル。事務系職種のほか16業種について整備されています※1。
注目したいのは、この基準が「成果につながる職務行動例」という言い方をしている点です。能力を抽象的に定義するのではなく、行動の例として書く。この形式は、AI活用を評価項目に落とすときにもそのまま使えます。「AIを使える」ではなく「どういう行動をとっていれば使えていると言えるか」を書く、という発想です。
なぜAIによる効率化が既存の評価に乗らないのか
ここからが本題です。AIの導入そのものは、すでに珍しいことではなくなりました。IPA(情報処理推進機構)は企業のDX推進状況を「戦略」「技術」「人材」の視点から継続的に調査しており、最新版は「DX動向2026 広がるAI導入、DXは変われるか」です※3。導入の広がりと、それが変革につながっているかどうかが論点になっています。国内外のICT・AI利活用の動向は、総務省の情報通信白書でも毎年整理されており、令和8年版は「AIの進歩を活かした課題解決」を特集しています※4。
つまり、関心はすでに「導入したか」から「導入して仕事が変わったか」へ移っています。ところが、人事評価の側はそれに追いついていないことが多い。理由は3つのずれにあります。
ずれ1:成果の定義が「量」のままになっている
多くの評価表で、成果は処理した量で定義されています。件数、金額、本数、対応数。これらは測りやすく、長らく機能してきた指標です。
ところが、AIによって単位あたりの所要時間が短くなると、この定義は次の問題を起こします。
- 同じ量なら評価は変わらない。半分の時間で終えても、件数が同じなら評価は同じです。効率化した人は損をしませんが、得もしません。
- 量を増やすと評価が上がる。その結果、浮いた時間は「同じ作業をもっとやる」ことに使われます。それが望ましい場合もありますが、判断や顧客対応に時間を回したい会社にとっては逆効果です。
- 質の劣化が見えない。量だけを見ていると、下書きを検証せずに出すような使い方が起きても気づけません。
ここでの処方は明確です。成果の定義に「時間の使い道」を足すこと。量を捨てる必要はありません。量に加えて、浮いた時間が何に向かったかを見る欄を作ります。
ずれ2:時間短縮は「評価される人」を選んでしまう
2つ目のずれは、もう少し厄介です。削減時間そのものを目標値にすると、不公平が生まれます。
理由は単純で、削減できる余地は業務によって最初から違うからです。定型的な文書作成が多い部署には削減余地が大きく、対人対応や現場作業が中心の部署には小さい。同じ「月20時間削減」を課すと、前者は容易に達成し、後者は達成できません。努力ではなく担当業務で結果が決まる目標は、評価制度としては機能しません。
さらに、次のような副作用も起きます。
| 副作用 | 起きること |
|---|---|
| 申告の歪み | 削減時間を自己申告させると、実態より大きく見積もる動機が働く |
| 共有されなくなる | うまい使い方が自分の評価の源泉になるため、他の人に教えなくなる |
| 仕事が寄る | 早く終わる人に仕事が集まり、結果として不満につながる |
2つ目の副作用がとくに重要です。効率化の価値は横に広がることで最大になるのに、個人の削減時間を評価すると共有しないほうが得という構造ができてしまいます。だからこそ、後述する行動評価では「他の人が使える形にしたか」を項目に入れます。
ずれ3:AIの利用そのものを測ってしまう
3つ目は、導入初期に起きやすい失敗です。個人ごとのAI利用回数を指標にすること。
利用回数は取得しやすく、増減も分かりやすいため、指標として採用されがちです。しかし、これを評価に接続すると次のことが起きます。
- 使うこと自体が目的化する。使う必要のない場面でも使い、かえって時間がかかります。
- 質の低い使い方が増える。回数を稼ぐために短い問いかけを繰り返す、といった行動が生まれます。
- 使わずに済ませた判断が評価されない。「この業務はAIに向かないと判断して従来どおりにした」は、本来は良い判断です。
測るべきは業務がどう変わったかであって、利用回数ではありません。回数は運用状況を把握する内部指標としては有用ですが、個人の評価には接続しない——この線を最初に引いておいてください。どの業務がAIに向くかの見極め方についてはAIで効率化できる業務の見極め方と棚卸しの手順で整理しています。
落とし込みの設計 — 3階層に分けて入れる
ここから設計に入ります。冒頭で示した3階層を、順に具体化します。
3つを同時に入れる必要はありません。初年度は行動評価だけから始めるのが現実的です。理由は3つあります。既存の評価表を大きく変えずに済むこと、期の途中でも観察できること、そして処遇への影響が段階的で済むことです。
なお、評価結果を賃金や賞与に直接結びつける形に変える場合は、就業規則や賃金規程の変更を伴うことがあります。労働条件の不利益変更にあたるかどうかの判断を含め、手続きは社会保険労務士等の専門家に確認してください。本記事で扱うのは、評価項目の設計という中身の話です。
行動評価:やり方を変えたことを見る
行動評価に入れる項目は、「AIを使ったかどうか」ではなく「仕事の進め方をどう変えたか」で書きます。前掲の職業能力評価基準が「成果につながる職務行動例」という形式をとっているのと同じ考え方です※1。
入れる価値が高いのは、次の4つです。
| 行動 | 観察できること |
|---|---|
| 手順を見直した | 従来の作業を工程に分け、任せる部分と自分で行う部分を決めている |
| 出力を検証している | 事実関係・数値・引用元を確認したうえで使っている |
| 他の人が使える形にした | うまくいった指示の出し方や手順を、共有できる形に残している |
| 使わない判断ができる | 向かない業務を見極め、理由を説明できる |
3つ目の「他の人が使える形にした」は、前述の副作用(共有されなくなる)への対処です。個人の削減時間ではなく共有した事実を評価することで、抱え込む動機を消します。
2つ目の「出力を検証している」も外せません。これを入れておかないと、確認せずに出す使い方が抑止できません。社内ルールの整備とあわせて設計するのが望ましく、ルールの作り方は生成AIの社内ガイドラインの作り方で扱っています。
段階の定義は、項目名より重要です。ここが曖昧だと、前述の中心化傾向でほぼ全員が「標準」に寄ります。「知見の共有」を例にすると、次のように書き分けられます。
| 段階 | 状態の記述 |
|---|---|
| 上位 | 他部署でも再現できる形にまとめ、実際に他の担当者が使っている |
| 標準 | 自分のチーム内で共有し、聞かれれば説明できる状態にしている |
| 下位 | 自分のやり方として持っているが、共有されていない |
ポイントは、上位を「実際に他の人が使っている」という事実で定義していることです。意欲や姿勢ではなく、確認できる状態で書く。これが評価エラーへのいちばん効く対処になります。
成果評価:浮いた時間の使い道を見る
成果評価では、削減時間そのものではなくその時間が何に向かったかを見ます。ここが本記事でもっとも伝えたい点です。
書き方は難しくありません。期首の目標設定で、次の形にします。
×「月20時間を削減する」
○「◯◯業務の下書き工程を見直し、生まれた時間を△△(顧客訪問/品質確認/後進の指導)に充てる。期末に、その時間で何を行ったかを報告する」
この形にすると、3つの効果があります。
- 削減量の大小で不公平にならない。削減余地の小さい業務でも、使い道を書けば目標として成立します。
- 過大申告の動機が消える。時間の大きさではなく、何をしたかで評価されるためです。
- 投資の説明ができる。「年間◯時間削減しました」で報告を終えると、必ず「その時間で何をしたのか」を問われます。最初から使い道まで記録しておけば、この問いに答えられます。
「用途」は自由記述にせず、あらかじめ分類を示しておくと期首の会話が早く終わります。分類は多くて4つで足ります。
| 用途 | 具体例 | 期末に確認できるもの |
|---|---|---|
| 顧客に向ける | 訪問・打合せ・提案の回数を増やす、対応の速度を上げる | 実際の回数、応答までの時間 |
| 品質に向ける | 確認工程を厚くする、記録を整える | 手戻りの件数、指摘事項の数 |
| 人に向ける | 後進の指導、手順の言語化、引き継ぎ資料の整備 | 作成した資料、指導した回数 |
| 新しいことに向ける | これまで着手できなかった改善・企画に取り組む | 着手した件数と、その内容 |
この表を渡して「どれに向けますか」と聞くだけで、目標設定の面談は具体的になります。期首に用途が決まっていれば、期末は確認するだけで済みます。
もう一つ、成果評価に入れておきたい観点があります。手戻りの回数です。所要時間が短くなっても差し戻しが増えていれば、全体としては改善していません。時間と手戻りは対にして見てください。
能力評価:扱える範囲を等級に載せる
能力評価にAIの観点を入れるのは、行動評価が定着してからで構いません。等級や昇格の判断に関わるため、影響が大きいからです。
参照できる枠組みとして、IPAは「デジタルスキル標準」を公開しています。これは、ビジネスパーソンがDXに関するリテラシーを身につけ変革により行動できるようになるためのDXリテラシー標準(DSS-L)と、DXを推進する人材の役割や習得すべきスキルなどを定義したDX推進スキル標準(DSS-P)の2つで構成されています※2。
使い分けの目安は次のとおりです。
| 対象 | 参照する標準 | 評価に落とすときの粒度 |
|---|---|---|
| 全社員 | DXリテラシー標準(DSS-L) | 共通項目として1〜2行入れる |
| 推進担当・専門職 | DX推進スキル標準(DSS-P) | 役割ごとに項目を分ける |
ここで注意したいのは、標準をそのまま評価表に貼らないことです。標準は網羅的に作られているため、そのまま持ち込むと項目数が現場の運用に耐えません。自社の職種に関係する部分だけを抜き、既存の等級定義の文言に合わせて書き直すのが実務です。等級ごとの必要スキルを一覧にする方法はスキルマップの作り方で扱っています。
評価項目の文例
実際に評価表へ書く文言の例を挙げます。そのまま使えるものではなく、自社の言葉に直す前提の下敷きとしてご覧ください。
| 区分 | 項目名 | 評価の着眼点 |
|---|---|---|
| 行動 | 業務手順の見直し | 担当業務を工程に分け、任せる範囲と自分で行う範囲を決めて実行しているか |
| 行動 | 出力の検証 | 事実・数値・出典を確認したうえで業務に用いているか。誤りを見つけた場合に手順へ反映しているか |
| 行動 | 知見の共有 | 有効だった進め方を、他の担当者が再現できる形で共有しているか |
| 行動 | 適否の判断 | その業務に適さないと判断した場合、理由を説明できるか |
| 成果 | 創出時間の活用 | 短縮によって生まれた時間を、期首に合意した用途に充てたか。その内容を説明できるか |
| 成果 | 品質の維持 | 手戻り・差し戻しの件数が悪化していないか |
| 能力 | 指示の設計 | 目的・前提・形式を伝え、必要な社内情報を添えて依頼できるか |
| 能力 | 取扱いの理解 | 社外に出せない情報の線引きを理解し、社内ルールに沿って扱えるか |
8項目すべてを一度に入れる必要はありません。初年度は行動の4項目のうち2つ——「業務手順の見直し」と「知見の共有」——から始めるのが現実的です。既存の評価表に2行足すだけなら、制度改定の手続きも軽く済みます。
目標設定(MBO)に書くときの型
目標管理制度(MBO)を採用している場合は、評価表を変えずに目標の書き方だけで対応できます。むしろこちらのほうが着手は速いでしょう。
書くときの型は4つの要素です。
- 対象業務を1つに絞る。「業務全般」では検証できません。月次報告書、問い合わせの一次回答、議事録——具体的な業務名を書きます。
- 変える工程を書く。その業務のどの工程を、どう変えるのか。丸ごとではなく工程で書くのが要点です。
- 生まれた時間の用途を書く。前述のとおり、削減量ではなく用途を先に決めます。
- 期末に何を提出するかを決める。変更後の手順書、共有した資料、実施した内容の報告——形にして出せるものを1つ指定します。
4つ目を入れておくと、期末の評価面談が楽になります。提出物があれば、評価は「やったかどうか」の議論にならないからです。逆にこれがないと、本人の自己申告と評価者の印象を突き合わせるだけの面談になります。
面談そのものの進め方については1on1ミーティングの進め方もあわせてご覧ください。
評価者の準備 — 期首の合意と期末の説明
制度を変えても、評価者が使えなければ機能しません。準備すべきことは2つの時点に分かれます。
| 時点 | やること | 失敗すると |
|---|---|---|
| 期首 | 新しい項目の意図と、どの状態が何段階にあたるかを評価者間で合わせる。部下と用途を合意する | 評価者ごとに基準がぶれ、不公平が生じる |
| 期末 | 評価の根拠を提出物・観察した行動で説明する | 印象評価だと受け取られ、制度への信頼が落ちる |
期首に必ずやってほしいのが、評価者を集めて具体例で目線を合わせることです。「この行動はA評価か、B評価か」を、実際の業務を例に3〜5件だけ議論します。抽象的な基準の読み合わせより、この30分のほうが効きます。
もう1点。評価者自身が生成AIを使ったことがない場合、部下の行動を評価できません。管理職向けの学習機会を先に設けてください。管理職の役割そのものの変化についてはAI時代に管理職に求められる役割の変化で扱っています。
制度を変えるときの手順と、決めておくこと
評価制度の変更は、手順を踏まないと現場の不信を招きます。最低限の順序は次のとおりです。
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | 何のために変えるのかを1文で決める(例:浮いた時間を判断と顧客対応に向けるため) |
| 2 | 追加する項目を2つ以内に絞り、評価の着眼点を文章で書く |
| 3 | 処遇への反映度合いを決める(初年度は参考評価にとどめる、という選択も含めて) |
| 4 | 評価者間で目線合わせを行う |
| 5 | 従業員に説明する。とくに「これは人を減らすための評価ではない」ことを明示する |
| 6 | 1期運用し、項目の文言と段階の定義を見直す |
5つ目は省略されがちですが、外せません。効率化の話は人員削減と結びつけて受け取られやすいためです。ここが伝わっていないと、時間短縮の実績を過少に申告する動機が働きます。目的は「面倒な作業を減らして、判断や顧客対応に時間を使えるようにすること」だと最初に明示してください。
3つ目の「初年度は参考評価にとどめる」という選択も、実務では有効です。処遇に直結させないことで、制度の粗さを1期かけて洗い出せます。育成計画との接続については人材育成計画(事業内職業能力開発計画)の作り方を参照してください。
うまくいかないときのチェックリスト
導入したが機能しない、というときは次を上から確認してください。
- 項目が多すぎないか。3つ以上足すと、評価者が見きれません。2つに戻します。
- 着眼点が抽象的でないか。「AIを積極的に活用している」では判断できません。観察できる行動に書き直します。
- 削減時間を目標値にしていないか。担当業務によって達成しやすさが変わる目標は、不公平になります。
- 利用回数を評価に接続していないか。使うこと自体が目的化します。
- 評価者が使い方を知っているか。知らないまま評価すると、印象評価になります。
- 期末に出すものが決まっているか。提出物がないと、面談が水掛け論になります。
- 期中に記録を残しているか。期末にまとめて思い出そうとすると、直前の出来事だけが残ります。四半期に一度、観察した行動を1〜2行書き留めるだけで、評価の根拠は大きく変わります。
この7つを確認しても機能しない場合は、評価制度ではなく業務の側に原因がある可能性があります。そもそも任せられる工程が特定されていない、必要な社内情報が渡せる形になっていない、といった状態です。その場合は評価表をいじる前に、業務の棚卸しに戻ってください。
まとめ:1年で一巡させる
ここまでの内容を、着手する担当者向けに整理します。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 着手〜1か月 | 目的を1文で決める。追加する行動評価の項目を2つに絞る |
| 期首 | 評価者の目線合わせ(具体例3〜5件)。部下と「浮いた時間の用途」を合意する |
| 期中 | 観察した行動を記録する。共有された知見を拾う |
| 期末 | 提出物をもとに評価し、根拠を説明する |
| 次期の前 | 項目の文言と段階の定義を見直す。必要なら能力評価へ広げる |
あらためて要点を3つに絞ります。
1つ目。時間短縮そのものは評価しない。削減量は業務によって決まってしまうため、努力の指標になりません。評価するのは、浮いた時間が何に向かったかです。
2つ目。共有した事実を評価に入れる。効率化の価値は横に広がって初めて大きくなります。個人の成果としてだけ扱うと、抱え込む構造ができます。
3つ目。小さく入れて、1期で直す。評価制度は、一度作ると変えにくいものだと思われがちですが、実際には運用しながら文言を直していくものです。最初から完成形を目指すより、2項目を入れて1期回し、現場の反応を見て直すほうが早く落ち着きます。
最後に、制度設計の目的を確認しておきます。AI活用を評価に入れるのは、使わせるためではありません。会社が何を大事にしているかを、行動の言葉で伝えるためです。「早く終わらせること」を大事にしているのか、「早く終わった分を何に使うか」を大事にしているのか。評価表に書いた1行が、その答えになります。
導入の前段として、どの業務が対象になるかを整理する工程についてはAIで効率化できる業務の見極め方と棚卸しの手順を、社内での定着そのものについては生成AIが社内で使われない理由と、定着のさせ方をご覧ください。
よくある質問
従業員の仕事ぶりを一定の基準で確認し、その結果を処遇や育成に結びつける仕組みを指します。制度として成立するには、何を見るか(評価項目)、どの物差しで見るか(評価基準)、誰が見るか(評価者)、結果を何に使うか(処遇との接続)の4つが決まっている必要があります。
能力評価は職務を遂行するための知識・技能を、行動評価は実際にとった行動や仕事の進め方を、成果評価は期間内に出した結果を見ます。AIの活用をもっとも乗せやすいのは行動評価です。期の途中でも観察でき、本人に説明しやすいためです。
おすすめしません。削減できる余地は業務によって最初から異なるため、同じ削減時間を課すと、努力ではなく担当業務で結果が決まってしまいます。また自己申告させると過大に見積もる動機が働きます。削減量ではなく、生まれた時間の用途を目標に書いてください。
個人の評価には接続しないでください。回数が評価されると、使う必要のない場面でも使う、質の低い使い方が増える、といったことが起きます。「向かないと判断して使わなかった」という良い判断も評価されなくなります。運用状況を把握する内部指標としては有用です。
既存の評価表に、行動評価の項目を2つ足すところからです。「業務手順の見直し」と「知見の共有」の2つが扱いやすいでしょう。目標管理制度を採用している場合は、評価表を変えずに目標の書き方を変えるだけでも始められます。
公的な下敷きがあります。厚生労働省の職業能力評価基準は、知識と技術・技能に加えて「成果につながる職務行動例」を業種別・職種別に整理したもので、人事評価の基準書としての活用が想定されています。キャリアマップや職業能力評価シート、導入・活用マニュアルも公開されています。
IPAのデジタルスキル標準が参照できます。全社員向けのDXリテラシー標準と、推進人材向けのDX推進スキル標準の2つで構成されています。ただし網羅的に作られているため、そのまま評価表に貼らず、自社の職種に関係する部分だけを抜いて既存の等級定義の文言に合わせて書き直してください。
その懸念は実際に生じます。だからこそ、制度を説明する場で「これは人を減らすための評価ではない」ことを明示してください。伝わっていないと、時間短縮の実績を過少に申告する動機が働きます。目的は、面倒な作業を減らして判断や顧客対応に時間を使えるようにすることだと位置づけてください。
先に管理職向けの学習機会を設けてください。使ったことがない評価者は、部下の行動を観察しても良し悪しを判断できず、印象評価になりがちです。あわせて、期首に評価者を集め、実際の業務を例に「この行動は何段階か」を3〜5件だけ議論しておくと、評価者間のぶれが減ります。
評価結果を賃金や賞与に直接結びつける形に変える場合、就業規則や賃金規程の変更を伴うことがあります。労働条件の不利益変更にあたるかどうかの判断を含め、手続きについては社会保険労務士等の専門家にご確認ください。初年度は処遇に直結させず参考評価にとどめる、という進め方も有効です。
参考文献
- ※1 職業能力評価基準 厚生労働省(2026.08.06確認)
- ※2 デジタルスキル標準 IPA(情報処理推進機構)(2026.08.06確認)
- ※3 DX動向(企業等におけるDX推進状況調査分析) IPA(情報処理推進機構)(2026.08.06確認)
- ※4 情報通信白書 総務省(2026.08.06確認)
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